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東京高等裁判所 平成4年(ネ)1131号 判決 1997年1月31日

平成四年(ネ)第一〇七四号事件控訴人・同第一一三一号事件被控訴人(以下「第一審被告」という。)

東日本旅客鉄道株式会社

右代表者代表取締役

松田昌士

右代表者支配人

齋藤雅之

右訴訟代理人弁護士

茅根煕和

春原誠

平成四年(ネ)第一〇七四号事件被控訴人・同第一一三一号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)

辻川慎一

平成四年(ネ)第一一三一号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)

福田弘行

平成四年(ネ)第一〇七四号事件被控訴人・第一一三一号事件控訴人(以下「第一審原告」という。)

柴田利夫

右三名訴訟代理人弁護士

葉山岳夫

森健市

主文

一  平成四年(ネ)第一〇七四号事件について

1  原判決中、第一審被告敗訴部分を取り消す。

2  右取消部分につき、第一審原告辻川慎一及び第一審原告柴田利夫の予備的請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告辻川慎一及び第一審原告柴田利夫の負担とする。

二  平成四年(ネ)第一一三一号事件について

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は第一審原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

(平成四年(ネ)第一〇七四号事件)

一  第一審被告

1  原判決中、第一審被告敗訴部分を取り消す。

2(一)  (本案前の申立て)

右取消部分につき第一審原告辻川慎一(以下「第一審原告辻川」という。)及び第一審原告柴田利夫(以下「第一審原告柴田」という。)の予備的請求に係る本件訴えをいずれも却下する。

(二)  (本案の申立て)

右取消部分につき、第一審原告辻川及び第一審原告柴田の予備的請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告辻川及び第一審原告柴田の負担とする。

二  第一審原告辻川及び第一審原告柴田

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は第一審被告の負担とする。

(平成四年(ネ)第一一三一号事件)

一  第一審原告ら

1  原判決中、第一審原告ら敗訴部分を取り消す。

2(一)  第一審原告辻川と第一審被告との間において、第一審原告辻川が水戸運転所運転士の地位にあることを確認する。

(二)  第一審原告福田弘行(以下「第一審原告福田」という。)と第一審被告との聞において、第一審原告福田が水戸運転所車両係の地位にあることを確認する。

(三)  第一審原告柴田と第一審被告との間において、第一審原告柴田が水戸運転所運転士の地位にあることを確認する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。

二  第一審被告

主文第二項の1、2と同旨。

第二  事案の概要

本件は、もと日本国有鉄道(以下「国鉄」という。)の職員であったが、いわゆる国鉄の分割・民営化によって昭和六二年四月一日発足した第一審被告に発足と同時に入社し、現在、第一審被告の勝田駅営業指導係(第一審原告辻川及び同柴田)又は水戸駅営業係(第一審原告福田)を命じられている者であって、いずれも国鉄水戸動力車労働組合(以下「動労水戸」という。)の組合員である第一審原告らが、(1) 昭和六二年四月一日付けの第一審被告における配属に関し、同年三月一六日ころ第一審被告の設立委員から第一審原告らに対してされた、第一審原告辻川及び同柴田については水戸運転所運転士兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)となる旨の、第一審原告福田については水戸運転所車両係兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)となる旨の同日付け通知のうち、各「兼関連事業本部」の通知部分(これらを併せて、以下「本件各関連事業本部兼務通知」という。)について、それは、同月一〇日、水戸機関区電車運転士(第一審原告辻川)、同車両検修係(第一審原告福田)又は同電気機関士(第一審原告柴田)であった第一審原告らに対して、設立委員からの委任又はその代行によるものとして国鉄からされた、いずれも水戸駅営業係兼務、営業部課員兼務を命ずる旨の、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に当たる人事異動の結果をそのまま引き継いでされた発令であるから、右人事異動と同じく同号の不当労働行為又は人事権の濫用に当たるものとして無効であり(ただし、各「兼水戸駅」の通知部分が後に解消されたものであることは争いがない。)、かつ、第一審被告発足後の昭和六三年四月一日又は同月二日に第一審原告らに対してされた兼務発令を解消する発令も、同号の不当労働行為又は人事権の濫用に当たるものとして無効であるなどと主張して、第一審原告辻川及び同柴田については主位的請求として水戸運転所運転士の地位にあることの確認を、第一審原告福田については水戸運転所車両係の地位にあることの確認を求め、さらに、(2) 第一審原告辻川及び同柴田については、仮に、本件各関連事業本部兼務通知による発令及び第一審被告発足後にされた兼務発令を解消する前記発令がいずれも有効と認められる場合でも、第一審被告発足後に右両名に対してされた右以外のすべての転勤発令は、同号の不当労働行為又は人事権の濫用に当たるものとして無効であるなどと主張し、予備的請求として、右各転勤発令がないものとしたときの右第一審原告らの現在の職名に対応する勤務箇所である水戸駅営業指導係の地位にあることの確認を求めた事案である(第一審原告福田は、当審において、水戸駅営業係の地位にあることの確認を求める予備的請求につき、訴えを取り下げた。)。

一  争いのない事実等

1  日本国有鉄道改革法(以下「改革法」という。)は、国鉄の分割・民営化に関し、国鉄が経営していた旅客鉄道事業を引き継ぐ承継法人である株式会社として旅客鉄道会社六社を、貨物鉄道事業を引き継ぐ承継法人として貨物鉄道会社一社を、それぞれ設立するものとし(六条、八条ないし一〇条)、右各会社(以下、これらを「新会社」ということがある。)は、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(以下「旅客鉄道会社等法」という。)附則九条、改革法附則二項一号、一項に基づき、昭和六二年四月一日成立した。

第一審被告は、主として東北及び関東の各地方において国鉄が経営していた旅客鉄道事業を引き継ぐ承継法人として成立した旅客鉄道会社であり、旅客鉄道事業のほか、旅客自動車運送事業、旅行業、駐車場業、旅行用品・飲食料品・酒類・医薬品・化粧品・日用品雑貨等の小売業、飲食店業等の事業を営むことを目的としている。

(弁論の全趣旨)

2(一)(1) 第一審原告辻川は、昭和五三年四月一日国鉄に採用され、国鉄から、昭和五九年九月一日水戸機関区電車運転士を命じられ、電車運転士として勤務していたが、昭和六一年八月一日営業部旅客課兼務、水戸機関区人材活用センター(以下「人活センター」という。)担務指定、水戸駅在勤を命じられた(水戸駅北口駐車場に配置)。

(2) 第一審原告辻川は、国鉄から、昭和六二年三月一〇日営業部旅客課兼務、水戸機関区人活センター担務指定、水戸駅在勤を免じられて、水戸駅営業係兼務、営業部課員兼務を命じられた。

(二)(1) 第一審原告辻川は、第一審被告の設立委員から、同年二月中旬ころ、同年四月一日付けで第一審被告に採用する旨の同年二月一二日付け通知を受けた。

(2) 第一審原告辻川は、第一審被告の設立委員から、同年三月一六日ころ、同年四月一日付けで第一審被告における勤務箇所・職名が水戸運転所運転士(二級)兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)となる旨の同年三月一六日付け通知を受けた。

(三) 第一審原告辻川は、同月三一日国鉄を退職し、同年四月一日第一審被告に入社した。

(四) 第一審原告辻川は、第一審被告から、同月七日平駅営業係兼務を命じられた(平駅旅行センター分室に配置)。

(五) 第一審原告辻川は、第一審被告から、同年一一月一日平駅営業係兼務を免じられるとともに、東海駅兼務、関連事業本部兼務、東海在勤を命じられた(東海駅直営売店「東海トキワ店」(その後「ルトラン東海」に店名変更。以下「ルトラン東海」という。)に配置)。

(六) 第一審原告辻川は、第一審被告から、昭和六三年四月二日東海駅営業指導係を命じられ、水戸運転所運転士兼東海駅兼関連事業本部(東海在勤)の兼務発令を解消された。

(七) 第一審原告辻川は、第一審被告から、平成五年一〇月一五日勝田駅営業指導係を命じられた(勝田駅直営売店「ピッコロ勝田」に配置)。

(八) 第一審原告辻川は、第一審被告成立前の昭和六一年八月一日から現在に至るまで、国鉄(第一審被告成立前)ないし第一審被告(第一審被告成立後)が行う旅客運送以外の事業(以下「関連事業」という。)の業務に従事しているもので、この間電車運転士ないし運転士の業務に従事したことがない。

(甲二、六、八、一一、一五、五五、乙二〇の1、三七、弁論の全趣旨)

3(一)(1) 第一審原告福田は、昭和五四年四月一日国鉄に採用され、国鉄から、昭和五五年二月一日水戸機関区車両検修係を命じられ、車両検修係として勤務していたが、昭和六一年八月一日営業部旅客課兼務、水戸機関区人活センター担務指定、水戸駅在勤を命じられた(水戸駅北口駐車場に配置)。

(2) 第一審原告福田は、国鉄から、昭和六二年三月一〇日営業部旅客課兼務、水戸機関区人活センター担務指定、水戸駅在勤を免じられて、水戸駅営業係兼務、営業部課員兼務を命じられた。

(二)(1) 第一審原告福田は、第一審被告の設立委員から、同年二月中旬ころ、同年四月一日付けで第一審被告に採用する旨の同年二月一二日付け通知を受けた。

(2) 第一審原告福田は、第一審被告の設立委員から、同年三月一六日ころ、同年四月一日付けで第一審被告における勤務箇所・職名が水戸運転所車両係(二級)兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)となる旨の同年三月一六日付け通知を受けた。

(三) 第一審原告福田は、同月三一日国鉄を退職し、同年四月一日第一審被告に入社した。

(四) 第一審原告福田は、第一審被告から、同月七日湯本駅営業係兼務、関連事業本部兼務、湯本在勤を命じられた(湯本駅直営売店「湯本トキワ店」に配置)。

(五) 第一審原告福田は、第一審被告から、昭和六三年二月八日湯本駅営業係兼務、湯本在勤を免じられるとともに、荒川沖駅兼務、荒川沖在勤を命じられた(荒川沖駅直営売店「ルトラン荒川沖」に配置)。

(六) 第一審原告福田は、第一審被告から、同年四月一日荒川沖駅営業係を命じられ、水戸運転所車両係兼荒川沖駅兼関連事業本部(荒川沖在勤)の兼務発令を解消された。

(七) 第一審原告福田は、第一審被告から、平成五年一〇月一五日水戸駅営業係を命じられた(水戸駅直営売店「ルトラン水戸」に配置)。

(八) 第一審原告福田は、第一審被告成立前の昭和六一年八月一日から現在に至るまで関連事業の業務に従事しているもので、この間車両検修係ないし車両係の業務に従事したことがない。

(甲三、五、七、九、一二、五六、乙二〇の2、三七、弁論の全趣旨)

4(一)(1) 第一審原告柴田は、昭和五四年四月一日国鉄に採用され、国鉄から、昭和五八年三月三日水戸機関区電気機関士を命じられ、電気機関士として勤務していたが、昭和六一年八月一日営業部旅客課兼務、水戸機関区人活センター担務指定、水戸駅在勤を命じられた(水戸駅北口駐車場に配置)。

(2) 第一審原告柴田は、国鉄から、昭和六二年三月一〇日営業部旅客課兼務、水戸機関区人活センター担務指定、水戸駅在勤を免じられ、水戸駅営業係兼務、営業部課員兼務を命じられた。

(二)(1) 第一審原告柴田は、第一審被告の設立委員から、同年二月中旬ころ、同年四月一日付けで第一審被告に採用する旨の同年二月一二日付け通知を受けた。

(2) 第一審原告柴田は、第一審被告の設立委員から、同年三月一六日ころ、同年四月一日付けで第一審被告における勤務箇所・職名が水戸運転所運転士(二級)兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)となる旨の同年三月一六日付け通知を受けた。

(三) 第一審原告柴田は、同年三月三一日国鉄を退職し、同年四月一日第一審被告に入社した。

(四) 第一審原告柴田は、第一審被告から、同月七日高萩駅営業係兼務、関連事業本部兼務、高萩在勤を命じられた(高萩駅直営売店「高萩トキワ店」に配置)。

(五) 第一審原告柴田は、第一審被告から、昭和六三年四月一日高萩駅営業指導係を命じられ、水戸運転所運転士兼高萩駅兼関連事業本部(高萩在勤)の兼務発令を解消された(第一審原告辻川に対する前記2(六)の発令、第一審原告福田に対する前記3(六)の発令及び第一審原告柴田に対する本発令中、各兼務発令の解消部分を併せて、以下「本件各兼務解消発令」という。)。

(六) 第一審原告柴田は、第一審被告から、平成二年三月二〇日大甕駅営業指導係を命じられた(大甕駅直営売店「トキワ大甕店」(後に「ルトラン大甕」に店名変更。以下「ルトラン大甕」という。)に配置)。

(七) 第一審原告柴田は、第一審被告から、平成四年三月一日勝田駅営業指導係を命じられた(勝田駅直営売店「モンタニエ」に配置)(第一審原告辻川に対する前記2(四)、(五)及び(七)の各発令並びに第一審原告柴田に対する右(四)、(六)の各発令及び本発令を併せて、以下「本件各転勤発令」という。)。

(八) 第一審原告柴田は、第一審被告成立前の昭和六一年八月一日から現在に至るまで関連事業の業務に従事しているもので、この間電気機関士ないし運転士の業務に従事したことがない。

(甲四、一〇、一三、一四、五七、乙二〇の3、三七、弁論の全趣旨)

5 第一審原告らは、昭和六一年一一月一九日国鉄の分割・民営化に反対して結成された動労水戸の組合員であるが、動労水戸は、第一審被告の発足後も、国鉄の分割・民営化に反対する活動方針を掲げて、活発な活動を継続した。

第一審原告辻川は、動労水戸の結成大会で執行委員長に選出されて現在もその地位にあり、第一審原告福田は、右大会で書記長に選出された後、平成二年一一月に副執行委員長に選出されて現在もその地位にあり、第一審原告柴田は、昭和六一年一二月同組合水戸支部の副執行委員長、昭和六二年三月同支部の執行委員長代行に選出された後、昭和六三年一月動労水戸の執行委員に選出されて現在もその地位にあり、いずれも動労水戸の組合活動に従事している。

(弁論の全趣旨)

二  争点

1  本件各訴えの適否(争点①)

2  本案について

(一) 主位的請求関係

(1) 本件各関連事業本部兼務通知の不当労働行為該当性及び同通知についての人事権の濫用の有無(争点②)

(2) 本件各兼務解消発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無(争点③)

(二) 予備的請求関係(第一審原告辻川、同柴田につき)

本件各転勤発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無(争点④)

三  争点に関する当事者の主張

1  争点①(本件各訴えの適否)について

(第一審被告)

(一) 第一審原告らと第一審被告との間の労働契約は、従事すべき業務、就業の場所等を限定しない労働契約であり、このような場合、使用者は業務上の必要に応じて、労働者が従事すべき業務、就業の場所等を決定し、これを的確に実施するよう労働者を指揮する権利を有する。したがって、第一審原告らをいかなる業務に従事させ、就業の場所をどこに定めるかは、使用者である第一審被告の労務指揮権の範囲内のものとして、労働契約の履行過程における事実行為にかかわる事柄にすぎず、労働契約上の権利義務に変動を及ぼすものではない。

したがって、第一審原告らの本件各訴えは、いずれも権利義務の確認を求めるものとはいえず、法律上の利益を欠く不適法なものというべきである。

(二) 第一審原告辻川及び同柴田の主位的請求に係る訴え並びに第一審原告福田の訴えは、水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係の地位にあることの確認を求めるものであるが、第一審被告の社員となった時点である昭和六二年四月一日における第一審原告らの発令上の地位は、単なる水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係ではなく、「兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)」との兼務発令が付されていたのであるから、このような兼務発令を外した形での職務上の地位にあることの確認を求める訴えは、法律上の地位の不安定を除去するという目的を達し得ず、確認の利益を欠き、不適法である。

また、第一審原告らは、国鉄勤務当時の昭和六一年八月一日人活センターの担務に指定されてからは、電車運転士、電気機関士又は車両検修係としての業務に従事したことがなく、昭和六二年四月一日の第一審被告発足時以降も運転士又は車両係としての業務に従事したことはない。したがって、水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係の職名は第一審原告らの職務上の地位を表すものではなく、名目的なものにとどまるから、その地位にあることの確認を求めることはできないものというべきである。

(三) 第一審原告辻川及び同柴田の水戸駅営業指導係の地位にあることの確認を求める予備的請求に係る訴えは、第一審被告が右第一審原告らに対して発令したことのない職務上の地位を、裁判によって形成しようとするものであるから、不適法である。

2  本案について

(第一審原告ら)

(一) 総説(国鉄及び第一審被告の不当労働行為意思)

(1) 第一審原告らは、かつて、いずれも国鉄動力車労働組合(以下「動労」という。)の組合員として、動労が国鉄労働組合(以下「国労」という。)と共に推進していた、国鉄の分割・民営化に対する反対運動に参加していた。しかし、動労は、昭和六〇年、鉄道労働組合(以下「鉄労」という。)及び全国施設労働組合(以下「全施労」という。)と共に、国鉄の分割・民営化を支持する方針を採るに至り、第一審原告辻川及び同福田は、昭和六一年七月の動労全国大会で国鉄の分割・民営化に反対する姿勢を示したことを理由に、後に動労本部から組合員権停止処分を受けた。

第一審原告らは、さらに、勝田駅の直営売店に配属された国労組合員甲野一郎の自殺に対する抗議集会等を通じて動労本部との対立を深め、同年一一月一九日、動労組合員四〇名で、「国鉄分割・民営化反対、一〇万人首切り阻止」をスローガンとする動労水戸を結成し、第一審原告辻川は執行委員長、第一審原告福田は書記長(平成二年一一月からは副執行委員長)の地位に就き、第一審原告柴田は水戸支部副委員長を経て昭和六三年一月からは執行委員、教宣部長の地位に就いた。

動労水戸は、昭和六一年一一月三〇日、国鉄千葉動力車労働組合(以下「千葉動労」という。)を中心とする他の三つの組合と連合して動労総連合を結成した。

(2) 国鉄は、同年一月、動労、鉄道及び全施労との間で、国鉄改革のために労使が立場を超えて最善の努力を尽くし、必要は合理化を積極的に推進することなどを内容とする労使共同宣言に調印し、さらに同年八月、真国鉄労働組合を加え、新会社発足後の労働組合のストライキの自粛、一企業一組合の目標などを内容とする第二次労使共同宣言を締結した。

このように、国鉄は、国鉄改革推進派組合の協力を得ながら、他方、国労、千葉動労等の国鉄改革反対派組合の組合員に対しては、遠隔地への配転をし、人活センターに送り込み、新会社に採用されないというどうかつを加えるなどして、国鉄改革反対派組合を弱体化する方策を採ったが、同年三月一一日には、職員管理調書を作成するよう関係部局に指示し、右調書を人活センターへの職員の配置のための資料として使用した。人活センターは、余剰人員対策という名目で同年七月以降全国的に設置されたが、その目的は、国鉄改革反対派組合の活動家を、一般の職員との接触を断って隔離収容することにあった。

(3) 前記のとおり、第一審原告辻川及び同福田は、動労本部から組合員権停止処分を受けたが、第一審原告らはそれとほぼ時を同じくして昭和六一年八月一日に人活センターに担務指定され、水戸駅北口駐車場で料金の徴収業務に従事させられた。人活センターに担務指定されることは、当時、新会社に採用されず、国鉄清算事業団(以下「清算事業団」という。)の職員となることを意味しており、国労組合員甲野一郎の自殺も、同様の措置を受けたための心理的重圧によるものであった。

(4) 国鉄は以下のような人活センターへの配置のほかにも、動労水戸に対する反組合的意図に基づいて、同年一二月における動労水戸の組合員の期末手当の五パーセントカット、その後の動労水戸の一般組合員までも対象とした配転・分散配置、右配転等に抗議して動労水戸が申し入れた団体交渉の拒否などの不当労働行為を行なった。

(5) さらに、昭和六二年三月一〇日に人活センターが廃止された際、水戸鉄道管理局の人活センターでは、国労組合員を含め、大部分の職員が元の職場に復帰したが、第一審原告ら動労水戸の組合員だけは、勤務態度に問題がなかったにもかかわらず、基本的に本務に復帰させられなかった。

(6) 第一審被告は、法形式上は、国鉄とは別個の法人であるが、国鉄時代の人事課職員の大部分が第一審被告の設立後も同一職務を担当するという体制の下で、第一審被告には、① 国鉄改革反対派組合を敵視する第一審被告社長の言動、② 水戸運行部(昭和六三年四月一日から水戸支社に組織変更。以下、併せて「水戸支社」という。)総務課主催の総合現場長会議における組合差別的な発言及び総務課から右参加者へのこれら発言をまとめた文書の郵送、③ 湯本駅の業務用掲示板における国労批判のビラの長期間の放置、④ 運転職場からの動労水戸の組合員の意図的な排除、⑤ 動労水戸の組合員に対する意図的な多数回の配転・分散配置、⑥ 売上げの見込めない関連事業への動労水戸・国労の各組合員の意図的な配置、⑦ 運転士の登用、昇進試験、事故時の社内処分等についての動労水戸の組合員に対する差別的取扱い、⑧ 労働組合への便宜供与等の面での動労水戸に対する差別的取扱い、⑨ 第一審被告設立後相当長期間にわたる動労水戸に対する正当な理由のない団体交渉拒否等が存在している。

(7) したがって、第一審被告も、動労水戸、国労等の国鉄改革反対派組合に対する強い不当労働行為意思を有していることが明らかである。

(二) 争点②(本件各関連事業本部兼務通知の不当労働行為該当性及び同通知についての人事権の濫用の有無)について

(1) 国鉄は、昭和六二年三月一〇日その職員について全国的な人事異動を実施した(右人事異動を、以下「三月一〇日人事異動」ともいう。)。第一審原告らは、その一環として行われた同日の発令によって、人活センター担務指定を免じられ、同時に、水戸駅営業係兼務、営業部課員兼務を命じられて、そのまま水戸駅北口駐車場の整備の仕事に従事させられたのであるが、右発令は、国鉄改革に反対する動労水戸の組合員である第一審原告らを嫌悪し、本務外しの不利益取扱いを継続したもので、労働組合法七条一号の不当労働行為に当たるとともに、業務上の必要性の全くない人事権の濫用によるものである。

(2) 新会社の職員の採用については、改革法二三条により、新会社の設立委員が国鉄を通じて新会社の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して職員の募集を行い、国鉄が右採用の基準に従ってその職員となるべき者を選定の上名簿を作成して設立委員に提出し、最後に設立委員が右名簿に記載された職員の中から採用者を決定して採用通知を行うこととされているところであり、第一審被告の設立委員は、昭和六二年二月中旬ころ、右名簿に記載された者の全員に対し、設立委員長名による昭和六二年二月一二日付け採用通知(以下「本件採用通知」という。)をした。

以上のような新会社の職員の採用手続における国鉄の立場に関しては、昭和六一年一一月二五日第一〇七国会参議院日本国有鉄道改革に関する特別委員会において、橋本龍太郎運輸大臣が「承継法人の職員の具体的な選定作業は設立委員などの示す採用の基準に従って国鉄当局が行うわけでありますが、この国鉄当局の立場を申しますものは、設立委員などの採用事務を補助するものとしての立場でございます。法律上の考え方で申しますならば、民法に照らしていえば準委任に近いものでありますから、どちらかといえば、代行と考えるべきではなかろうかと考えております。」と答弁し、林淳司大臣官房日本国有鉄道再建統括審議官も同旨の答弁をしている。

したがって、改革法二三条における新会社の職員の採用手続での国鉄の地位は、新会社の職員採用の準備行為についての設立委員からの委任によるものないし設立委員の代行としてのものであることは明らかである。

(3) 昭和六一年一二月一一日開催の新会社の第一回設立委員会(以下、「新会社の設立委員会を単に「設立委員会」という。)において確認された「国鉄改革のスケジュール」(甲一二一)によれば、設立委員が職員の配属を決定して国鉄に内示し、これを受けた国鉄が実際に配転計画を策定し、これに基づいて発令したのが三月一〇日人事異動と考えられる。

このような人事異動が予定されていたことから、国鉄は、昭和六一年一二月に国鉄業務の新事業体への円滑かつ確実な移行の推進のため、本社内に副総裁を長とする「移行推進委員会」を設置し、同委員会の指揮の下に、旅客鉄道会社等の設立の準備及び移行にかかわる業務を推進する目的で各会社ごとに設立準備室を設置した。そして、右設立準備室において、昭和六二年四月一日に新会社が円滑に発足できるよう、同年の年初から新会社の設立委員の方針等に従い、新会社の社内機構等の細部についての整備等を進めていた。

(4) 仮にそうでないとしても、国鉄は、昭和六二年二月一二日開催の第三回設立委員会において、三月にその職員の人事異動を行うから、そのとおりに設立委員会が新会社の職員の配属をしてもらえば新会社と国鉄が連続性をもって確実に事業の移行ができる旨、運輸省を通じて申し入れ、設立委員会は右申入れを了承した。これにより、同日、国鉄と設立委員会との間で、発足時における新会社の職員の配属決定を国鉄に包括的に委任し又はこれに代行させる旨の契約が成立した。

(5) 三月一〇日人事異動は、以上のようにして新会社の設立委員から国鉄に対してされた、職員の配属の決定についての委任によるものないし設立委員の代行としてしたものであり、設立委員がこのように新会社移行後の人員体制の形成という業務の遂行を国鉄に委任し又は代行させることは、旅客鉄道会社等法附則二条二項所定の「当該会社がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な業務」に含まれるものというべきである。

(6) 新会社の設立委員は、先に本件採用通知をした者に対し、昭和六二年三月一六日以降新会社の成立までの間に、三月一〇日人事異動による勤務箇所、職名等を新会社の勤務箇所、職名等に引き直したものを、新会社における同年四月一日の勤務箇所、職名等として記載して通知(以下「本件配属通知」という。)をした。

本件配属通知は、新会社の職員の配属発令としての効力を持つものであって、設立委員によって、改革法二三条による職員採用に伴う当然の権限の行使ないし旅客鉄道会社等法附則二条二項所定の前記業務の遂行としてされたものであるが、これによって、新会社移行のための人員体制が完成された。

(7) 設立委員が国鉄に委任し又は代行させて実施させた三月一〇日人事異動に不当労働行為ないし人事権の濫用の違法事由が存する場合には、設立委員が責任を負うべきことは当然の理であるから、三月一〇日人事異動による配属の決定をそのままうのみにして設立委員がした新会杜の職員の配属発令(本件配属通知)も、三月一〇日人事異動における不当労働行為ないし人事権の濫用の違法事由を引き継ぎ、同じく違法となるものというべきである(新会社の設立委員は、三月一〇日人事異動に基づいて新会社の職員の配属発令(本件配属通知)をするに当たって、その準備過程に当たる右人事異動に不当労働行為などの違法行為が行われなかったか否かを精査し、違法行為の存在を認めた場合は、これを修正して配属発令(本件配属通知)を行うべきものであったのに、これをしなかったのであるから、特別の規定によって除外されない限り、法の一般原則に従って権限不行使に伴う責任や人事権の濫用による法的効果の発生等を避けることができない。)。

(8) 承継法人の職員の採用について当該承継法人の設立委員がした行為は当該承継法人がした行為とする旨定めている改革法二三条五項の規定の趣旨は、設立委員が新会社の事業の円滑な開始のために、採用と密接に関連して行う配属発令についても当然に及ぼされるべきものであるから、新会社は、設立委員の前記不当労働行為ないし人事権の濫用について責任を負うものというべきである。

(9) したがって、第一審被告は、国鉄が第一審原告らに対してした三月一〇日人事異動における労働組合法七条一号の不当労働行為ないし人事権の濫用についての責任を免れず、第一審原告らに対する本件配属通知の一部である本件各関連事業本部兼務通知は、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し、無効である。

(10) 仮に、設立委員のした本件配属通知が法的には内示ないし事前通知の性質を有するものであって、第一審被告の発足時の昭和六二年四月一日付け社長通達第二号(以下「本件通達」という。)がこれを同日発令したものとみなしたものであるとしても、本件通達中、第一審原告らに対する本件各関連事業本部兼務通知を同日発令したものとみなした部分は、第一審原告らを関連事業に従事させる必要がないのに、不当労働行為意思に基づき、第一審原告らに対する国鉄以来の本務外しの不利益取扱いを継続してこれに従事させることとしたものであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し、無効である。

(三) 争点③(本件各兼務解消発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無)について

(1) 第一審原告らは、国鉄時代における運転職場等での勤務成績に問題がなかったのであるから、関連事業に従事させる必要性はもともと存しなかったものである上、発足後一年では社員の適性を把握することはできないことからいっても、第一審原告らに対し、専ら関連事業の業務に従事することを内容とする営業指導係ないし営業係の発令をし、運転士ないし車両係の兼務発令を解消させなければならないような業務上の必要性は存しなかったものである。それにもかかわらず、第一審被告が本件各兼務解消発令をしたことによって、第一審原告辻川及び同柴田は、運転士の地位を喪失し、かつ、右運転士の業務に復帰することが事実上ますます困難になるという職務上の不利益と、兼務発令解消の二年後である平成二年四月から乗務員としての二号俸の加給がなくなるという生活上の不利益を被った。また、第一審原告福田は、車両係の地位を喪失し、かつ、右運転士の業務に復帰することが事実上ますます困難になるという職務上の不利益を被った。

以上のとおり、本件各兼務解消発令は、業務上の必要性がないのに、不当労働行為意思(前記(一)(6)(7))に基づいてされた不利益取扱いであることが明らかであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し、無効である。

(2) そうすると、第一審原告らに対する本件各関連事業本部兼務通知に係る配属発令(第一審被告の設立委員のした本件各関連事業本部兼務通知による配属発令。仮にこれが法的には内示ないし事前通知であるとした場合には第一審被告の発した本件通達による配属発令)及び本件各兼務解消発令はいずれも無効であるから、第一審原告らは、現在も水戸運転所運転士ないし車両係の地位にあるものというべきである。

(四) 争点④(本件各転勤発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無)について

(1) 業務上の必要性

第一審原告辻川及び同柴田に対する本件各転勤発令は、次のとおり、いずれも業務上の必要性がないのにされたものである。

イ 第一審原告辻川関係

(イ) 昭和六二年四月七日の発令

第一審原告辻川が従事していた水戸駅北口駐車場の業務が終了したとしても、水戸駅における関連事業には他にもミート店、トキワ店、水戸ストア及び旅行センター分室が存在しており、第一審原告辻川を他の駅での関連事業に従事させる必要性はなかった。

第一審原告辻川が配置された平駅旅行センター分室の要員は五人であったが、第一審原告辻川が当初の二か月間に従事した業務は、午前・午後の各三〇分程度駐車場整理と称して駅構内をぶらぶらするだけの仕事であり、その後従事した業務である特急券やオレンジカード販売の仕事も売上げが乏しく、業務と呼べる程のものではなかったものであって、第一審原告辻川が配置された平駅旅行センター分室は過員状態であり、事実、第一審原告辻川の転入後の同年七月一日付けで、平駅旅行センター分室からキヨスク水戸営業所に一人が出向させられている。また、平地区から水戸地区に通勤している者で平地区への転勤を希望している者は多かったから、水戸市に住所を有する第一審原告辻川を平地区に異動させる必要性はなかった。

(ロ) 同年一一月一日の発令

右発令は、東海駅の直営売店「ルトラン東海」に欠員が生じたとしてされたものであるが、右発令の業務上の必要性はなかった。

(ハ) 平成五年一〇月一五日の発令

第一審原告辻川が右同日配置された勝田駅直営売店「ピッコロ勝田」は、動労水戸の組合役員の実質的な収容先となっており、右直営売店に配転を行なう理由はほとんど存在しない。

ロ 第一審原告柴田関係

(イ) 昭和六二年四月七日の発令

水戸駅北口駐車場の業務が終了したとしても、第一審原告柴田を他の駅での関連事業に従事させる必要がなかったことは、第一審原告辻川の場合と同じである。

(ロ) 平成二年三月二〇日の発令

右発令は、大甕駅直営売店「ルトラン大甕」に定年退職による欠員が生じたとしてされたものであるが、右発令の業務上の必要性はなかった。

(ハ) 平成四年三月一日の発令

右発令は、大甕駅直営売店「ルトラン大甕」が閉店され、勝田駅直営売店「モンタニエ」に配置されていた社員一人が退職して欠員が生じたとしてされたものであるが、右発令の業務上の必要性はなかった。

(2) 第一審原告辻川及び同柴田の被った不利益

イ 第一審原告辻川

第一審原告辻川は、① 平駅では仕事らしい仕事を与えられず、その後は慣れない直営売店の業務に従事させられたこと(このため、第一審原告辻川は、十二指腸かいようにかかった。)、東海駅直営売店「ルトラン東海」では店長の地位にあったが、食品衛生管理者の資格さえ取得させられず、劣悪な環境で勤務させられたこと(例えば、便所が右直営売店から至近の距離にあり、その汲み取り口は店舗から二メートルの場所に設置されている。)などの職務上の不利益、② 昭和六二年四月七日の発令に基づく平駅への転勤により家族との別居を余儀なくされたことや、運転士の乗務に伴う旅費、特殊勤務手当等がなくなり、月額約五万円の減収になったことなどの生活上の不利益、③ 勤務時間後に平駅や東海駅の勤務先から水戸市内にある動労水戸の組合事務所に赴いた上、深夜まで会議をすることを余儀なくされたことなどの組合活動上の不利益を受けた。

ロ 第一審原告柴田

第一審原告柴田は、① 慣れない直営売店の業務に従事させられたことなどの職務上の不利益、② 昭和六二年四月七日の発令により、茨城県鹿島郡旭村所在の両親宅(両親は高齢であり、父は心臓が悪く、同居が必要である。)から高萩駅の勤務先まで長時間の通勤を余儀なくされたこと、運転士の乗務に伴う旅費、特殊勤務手当等がなくなり、月額約五万円の減収になったことなどの生活上の不利益、③ 動労水戸の組合活動を十分遂行することができなくなったことなどの組合活動上の不利益を受けた。

(3) 以上のとおり、本件各転勤発令は、業務上の必要性が認められないのに、不当労働行為意思(前記(一)(6)、(7))に基づいてされた不利益取扱いであることが明らかであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し、無効である。

(4) 第一審被告は、本件各転勤発令が就業規則に基づき行われたものである旨主張するが、右就業規則自体、国鉄と労働組合との間の労働協約や協定、慣行を無視した違法がある。また、本件各転勤発令のうち昭和六二年四月七日の発令のものは、就業規則の作成に当たって要求される、労働者の過半数を代表する者の意見の聴取等の労働基準法九〇条一項所定の手続を経る前に行われた違法があるし、第一審被告がその社員を公正に判断し得るはずもない発足後間もない時期にされたものであるから、「社員の任用は、社員としての自覚、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性、試験成績等の人事考課に基づき、公正に判断して行う。」と定める就業規則二七条の規定にも違反する。

以上のとおりであるから、本件各転勤命令は、違法な就業規則に基づき、かつ、就業規則の関係規定にも違反してされたものであって、いずれも無効であり、第一審被告の前記主張は失当である。

(第一審被告)

(一) 争点②(本件各関連事業本部兼務通知の不当労働行為該当性及び同通知についての人事権の濫用の有無)について

(1) 第一審被告の設立委員及び国鉄は、第一審被告の社員の採用手続において、改革法二三条の規定に従ってそれぞれ独立してその権限を行使したものにすぎず、第一審原告らの主張するような、国鉄が設立委員から委任を受け又はその行為を代行するというような関係にはなかったものである。第一審原告らが挙げる運輸大臣等の国会答弁は、改革法二三条の法律的解釈の論拠となるものではない。

(2) 国鉄は、昭和六二年二月一二日の時点で承継法人に採用される職員が確定したことを踏まえて、自己の判断により、三月一〇日人事異動を実施したが、この人事異動の目的は、新会社が発足する直前の三月三一日までの間の国鉄の事業が滞りなく遂行されることと、同日から新会社が発足する四月一日にかけて一切の列車運行に支障が生じないで国鉄の事業を新会社が円滑に承継できるような体制を整備するというところにあった。これは、政府機関の一つである国鉄の責務として当然のことであるとともに、国鉄が改革法二条二項に定められた努力義務を果たしたものであって、右人事異動に当たって、新会社の設立委員からの指示等は一切なかった。

(3) 新会社の設立委員は、本件採用通知をした国鉄職員に対し、昭和六二年三月中旬以降新会社の成立までの間に、現に従事している国鉄の勤務箇所、職名等をそのまま機械的に新会社の同年四月一日の勤務箇所、職名等に読み替えて記載した本件配属通知をしたが、これは、列車の運行を間断なく継続し、四月一日からの新会社の業務開始が円滑に行なわれることを確保するために最良の方法としてしたものであるから、それ自体不当労働行為や人事権の濫用に当たらないことは明らかである。

(4) 第一審原告らは、国鉄がした三月一〇日人事異動について、これを第一審被告の設立委員が国鉄に委任し又は代行させてしたものであるなどと主張しているが、第一審被告の設立委員は国鉄の人事異動を行う権限を有していないから、設立委員が国鉄に対してその職員の人事異動の委任をし又はこれを代行させるということはあり得ないものである。国鉄における人事異動は、国鉄が独自の判断と責任において行ったものであって、仮にその人事異動に不当労働行為等があったとしても、その責任を第一審被告の設立委員、ひいては第一審被告に帰することはできない。

第一審原告らは、昭和六二年二月一二日開催の第三回設立委員会において、新会社発足に際しての職員の配属決定につき、国鉄に包括的に委任する旨の契約が第一審被告の設立委員と国鉄との間に成立したと主張するが、そのような事実は存在しない。

(5) 第一審原告らは、第一回設立委員会において「国鉄改革のスケジュール」(甲一二一)が確認されたとも主張するが、そのような事実はない。右文書には、第一審被告の設立委員は採用者の決定後に国鉄職員の配属を決定して国鉄に内示し、これを受けて国鉄は配転計画を策定し、配転命令をするように読める記載があるとしても、設立委員には国鉄職員の配属を決定する権限はなく、その事実もなかったものである。

また、設立準備室の所管業務は、一つには、旅客鉄道会社等の設立等に伴う具体的な業務移行の準備及びその実施の推進に関すること、二つには、旅客鉄道会社等の設立等に関連して、他の設立準備室及び部外関係機関との連絡調整に関すること等であり、国鉄が行った三月一〇日人事異動について設立準備室は全く関与したことがない。

(6) 本件通達中、第一審原告らに対する本件各関連事業本部兼務通知を昭和六二年四月一日発令したものとみなした部分は、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し無効である旨の第一審原告らの主張は争う。

(二) 争点③(本件各兼務解消発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無)について

発足当初における第一審被告において、関連事業部門は本社直轄とされ、関連事業に関する業務上の指示は直接本社から行なわれることとなっていた関係から、関連事業に従事する社員に対しては、「兼関連事業本部」との兼務発令が出されていたが、昭和六三年四月一日付けで組織改革が行なわれ、関連事業のうち駅構内の直営売店の管理運営は、本社の関連事業本部から各駅に移管されることとなったため、右組織改正に伴い、関連事業に従事する社員については、指揮命令の系統及び昇進ルート等を明確にするため、兼務発令の解消が実施された。

本件各兼務解消発令は、このような経緯で、第一審被告の組織改正に伴い、兼務発令を受けて関連事業部門に従事していたすべての社員を対象として実施された兼務発令の解消措置の一環として行われたものであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為や人事権の濫用に当たらないことは明らかである。

なお、第一審原告辻川及び同柴田は、運転士の兼務発令が解消されたことによって、賃金規程に従い、その二年後に二号俸の加給が行なわれなくなったが、これは、運転士の職名で兼務発令を受けていた社員全員に対して行なわれた措置であり、右両名のみがそのような扱いを受けたわけではないから、労働組合法七条一号の不利益取扱いと評価されるべきものではない。

(三) 争点④(本件各転勤発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無)について

(1) 発令の根拠

第一審被告の就業規則二八条一項は「会社は、業務上の必要がある場合は、社員に転勤、転職、昇職、降職、昇格、降格、出向、待命休職等を命ずる。」と規定し、業務上の必要性がある場合には社員に転勤を命ずることができるものとしているが、本件各転勤発令は、いずれも、右規定に基づき、業務上の必要によりされたものであるから、適法である。

右就業規則の内容は、昭和六一年一二月一九日開催の第二回設立委員会で検討された上、昭和六二年三月二三日開催の第一回取締役会で決定され、第一審被告の発足前に国鉄の各現業機関の職員に周知させるべく掲示されたものであり、第一審被告は、その発足後、直ちに事業場の労働者の過半数を占める労働組合の意見を聴いた上、右就業規則を労働基準監督署長に届け出ている。

もっとも、本件各転勤発令のうち同年四月七日のものは、右意見聴取及び労働基準監督署長への届け出よりも前にされたものであるが、労働基準法九〇条一項所定の意見聴取の手続及び同法八九条一項所定の行政官庁への届け出は、就業規則の効力要件ではないと解されるから、このような事実があるからといって、本件各転勤発令が無効となるものではない。

(2) 業務上の必要性

イ 第一審原告辻川及び同柴田共通(昭和六二年四月七日の発令)

第一審被告は、昭和六二年四月一日の発足時から鉄道輸送に必要とされる要員数を超えて採用した膨大な余力人員を抱えていたため、これら余力人員を鉄道輸送以外の業務分野を開拓して活用することが、緊急の課題となっていた。

水戸支社においても、昭和六二年四月一日時点で二二〇人もの余力人員を擁し、このうち水戸運転所では五〇人を超える余力人員を抱える状況にあった。水戸運転所におけるこれら余力人員のうち、右時点で、出向、直営売店、ボイラー、オートセンター、駐車場等の業務に従事していたのは三七人にすぎなかった。水戸運転所における余力人員の解消はその後もはかばかしくなく、平成二年六月当時でも、約四〇数人もの余力人員が存在するという状況が継続した。

そのため、第一審被告としては、水戸運転所に第一審原告辻川及び同柴田を配置しても、有効活用を図ることができないだけでなく、ブラ勤等を生ずるなど職場規律を乱すおそれもあることから、関連事業の今後の発展を期し、関連事業要員の確保・養成を目的として、右両名の異動を実施することとした。

ロ 第一審原告辻川

(イ) 昭和六二年四月七日の発令

第一審原告辻川は、第一審被告の発足前から水戸駅北口駐車場の業務に就いていたが、右駐車場用地が同年三月三一日に清算事業団に移管されたため、同年四月一日から同月三日までの間、帳簿類の整理、環境整備等の残務整理業務に従事した。しかし、右業務は、同日をもって終了することから第一審原告辻川を他に異動させる必要が生じ、第一審被告は、第一審原告辻川を関連事業要員として養成するため、鉄道営業収入の増収に向けた営業活動に従事させることとし、同月七日、平駅営業係兼務を命じて同駅旅行センター分室に配置した。

(ロ) 同年一一月一日の発令

第一審被告は、同日、第一審原告辻川に対し、東海駅兼務、関連事業本部兼務、東海在勤を命じて東海駅直営売店「ルトラン東海」に配置したが、右発令は、用地管理室の設置に伴う関連異動で東海駅直営売店に勤務する社員一人が同室に異動することとなったため欠員の補充の必要が生じたためにしたものである。

(ハ) 平成五年一〇月一五日の発令

第一審被告は、同日、第一審原告辻川に対し、勝田駅営業係を命じて勝田駅直営売店「ピッコロ勝田」に配置したが、これは、東海駅直営売店「ルトラン東海」の売上げが低く、今後の売上げ増加の見通しがなかったことから、同日をもって閉店したので、同原告の住居の最寄り駅が勝田駅であることを考慮して発令したものである。

ハ 第一審原告柴田

(イ) 昭和六二年四月七日の発令

第一審原告柴田も、第一審原告辻川と同じく、第一審被告の発足前から水戸駅北口駐車場の業務に就いていたが、同月三日残務整理業務が終了することから他に異動させる必要が生じ、第一審被告は、第一審原告柴田を関連事業要員として養成するため、同月七日、同原告に対し、高萩駅営業係兼務、関連事業本部兼務、高萩在勤を命じて高萩駅直営売店「高萩トキワ店」に配置した。

(ロ) 平成二年三月二〇日の発令

第一審被告は、同日、第一審原告柴田に対し、大甕駅営業指導係を命じて大甕駅直営売店「ルトラン大甕」に配置したが、右発令は、右直営売店に勤務していた社員一人が定年で退職し、欠員補充の必要が生じたためにしたものである。

(ハ) 平成四年三月一日の発令

第一審被告は、同日、第一審原告柴田に対し、勝田駅営業指導係を命じて勝田駅直営売店「モンタニエ」に配置したが、これは、大甕駅直営売店「ルトラン大甕」の営業成績が悪く、同年二月末日をもって閉店することとなり、一方、勝田駅直営売店「モンタニエ」に配置されていた社員一人が同日退職し、その補充をする必要が生じたため、水戸市内に住居を有する同原告の通勤の便宜をも考慮して、発令したものである。

(3) 第一審原告辻川及び同柴田の不利益の有無

イ 第一審原告辻川及び同柴田は、関連事業の業務に就いていること自体が、その職務上の不利益に含まれるかのような主張をしている。しかし、関連事業も、旅客鉄道事業と並んで第一審被告の営む主たる事業の一つであって、関連事業に係る職務と旅客鉄道事業に係る職務との間に軽重の差はなく、しかも、第一審原告辻川及び同柴田は、第一審被告への入社に当たって職種を限定して採用されたものではなく、入社以来運転士の職務に就いたこともない。

したがって、関連事業の職務に就いていること自体は、何ら、右両名の職務上の不利益に当たるものではない。

ロ 第一審被告において、水戸地区と平地区との間の人事異動は数多く行なわれ、その結果多くの社員が右地区間を日常通勤しているのであるから、第一審原告辻川及び同柴田が平駅ないし高萩駅に転勤したからといって、通勤時間の点から見ても、他の社員と比較して、生活上特段に不利益を被ったものとはいえない。なお、第一審原告柴田は、昭和六二年四月七日の発令当時、水戸市所在の第一審被告の独身寮(千波寮)に居住しており、第一審被告は、同原告が茨城県鹿島郡旭村所在の両親宅に転居する予定であることを事前に知らなかったものであり、平成四年三月一日の発令当時は、同原告が右両親宅に転居したことの申告を受けておらず、右事実を知らなかったものである。

また、旅費、特殊勤務手当等は実際に乗務をした場合に支給されるものであるから、乗務をしない第一審原告辻川及び同柴田に支給されないのは当然のことである。

ハ 第一審原告辻川及び同柴田は、本件各転勤発令後も、勤務時間外に組合活動をする余裕は十分に存したのであるから、本件各転勤発令によって組合活動上の不利益を被ったものとはいえない。

ニ 第一審原告辻川は、平成五年一〇月一五日の発令によって、住居(茨城県ひたちなか市)からの最寄り駅(勝田駅)が勤務箇所となっている。また、第一審原告柴田については、平成二年三月二〇日、平成四年三月一日のいずれの発令についても、その住居(平成二年三月二〇日の発令時・水戸市、平成四年三月一日の発令時・茨城県鹿島郡旭村)からさほどの通勤時間を要せずに通勤することが可能な勤務箇所となっている。

したがって、第一審原告辻川及び同柴田は、右各発令によって、生活上ないし組合活動上何らの不利益を受けていないことが明らかである。

(4) 不当労働行為該当性又は人事権の濫用の有無

以上のとおり、本件各転勤発令は、いずれも、第一審被告の就業規則二八条に基づき、業務上の必要により行なわれたものであって、右各発令によって第一審原告辻川及び同柴田に特段の不利益が生じているものでもない。また、第一審被告の不当労働行為意思を示す事実として第一審原告らが主張するもの(前記(一)(6)①ないし⑨)は、ささいな若しくは特殊な事実を殊更不当労働行為意思と結び付けようとしたものか又はそのような事実自体が存在しないかのいずれかであって、すべて根拠がなく、本件各転勤発令は、何ら、組合差別等の不当労働行為意思に基づくものではない。

したがって、本件各転勤発令に労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用があるとする第一審原告辻川及び同柴田の主張は、いずれも失当である。

第三  当裁判所の判断

一  国鉄の分割・民営化の概要

前記第二の一の事実に加え、証拠(乙一ないし一〇、二一、原審及び当審証人伊藤嘉道、同成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  国鉄は、昭和二四年に公社として設立され、戦後の我が国の盛んな輸送需要に対応して輸送力の増強等を図ってきたが、昭和三〇年代以降の産業構造の変化や国民の所得水準の向上に伴い、自動車、航空機等の他の交通機関との競争が激化し、国鉄が持っていた他の交通機関に対する優位性は急速に失われていった。

このような状況の中で、国鉄の経営は、昭和三九年度に赤字に転じて以来、二〇年間以上にわたって悪化の度を深め、昭和六〇年度には単年度で二兆三〇〇〇億円を超える赤字を計上し、債務残高も同年度末には二三兆六〇〇〇億円もの巨額に達するという状態に立ち至った。

2  臨時行政調査会は、昭和五七年七月三〇日、政府に対して「行政改革に関する第三次答申」を提出したが、右答申は「今や国鉄の経営状況は危機的状況を通り越して破算状況にある。」、「国鉄の膨大な赤字はいずれ国民の負担となることから、国鉄経営の健全化を図ることは、今日、国家的急務である。」、「新しい仕組みについての当調査会の結論は、現在の国鉄を分割し、これを民営化することである。」、「政府全体としてこの問題に取り組むための推進機関を設け、明確な手順の下でこれを進めるべきであると考える。」と指摘した上、新形態への移行までの間緊急に採るべき幾つかの措置を挙げ、その中で「業務運営全般について私鉄並みの生産性を目指すこととし、そのため、作業方式、夜間勤務体制、業務の部外委託、職務分担の在り方等の抜本的な見直しを行い、実労働時間の改善を図るとともに、配置転換を促進し、各現場の要員数を徹底的に合理化する」ことを求めた。政府は、同年九月二四日、右答申の趣旨に沿い、当面緊急に講ずべき対策について閣議決定をした。

3  右答申により、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法に基づいて昭和五八年六月一〇日に発足した日本国有鉄道再建監理委員会は、昭和六〇年七月二六日、国鉄事業の分割・民営化を昭和六二年四月一日に実施すべきことを内容とした「国鉄改革に関する意見」(以下「本件意見」という。)を政府に答申したが、その骨子は、国鉄の経営が悪化し破たんにひんした最大の原因は、公社という自主性の欠如した制度の下で、全国一元の巨大組織として運営されている現行経営形態そのものに内在するから、国鉄事業を再生するためには分割・民営化施策を断行するしかないとして、(1) 鉄道旅客部門は地域ごとの六社の旅客鉄道会社に分割して帰属させる、(2) 鉄道貨物部門は一社の貨物鉄道会社に帰属させる、(3) 新幹線は一括して保有機構が所有し、これを運営する旅客鉄道会社に貸し付けるなどというものであった。

4  本件意見は、新事業体の要員規模等について、(1) 国鉄における職員のいわゆる働き度は私鉄と比較した場合依然相当低い水準にあると判断されるので、私鉄並みの生産性の達成を目指し、今後も職員の多能的運用、輸送需要に即応した勤務形態の設定、実作業時間の改善等の徹底した要員の合理化を実施することが必要である、(2) 私鉄並みの生産性を前提に、中・長距離旅客輸送を行っているなどの国鉄旅客事業の特殊性を加味して昭和六二年度の鉄道旅客部門の適正要員規模を推計すると一五万八〇〇〇人程度であるが、旅客鉄道会社のその他の部門(バス部門、関連事業部門等)の適正要員規模は一万人程度と推計されるので、昭和六二年度の旅客鉄道会社の適正要員規模は一六万八〇〇〇人程度となる、(3) 鉄道貨物部門の適正要員規模は一応一万五〇〇〇人弱と見込まれるから、これを加えた新事業体の適正要員規模は一八万三〇〇〇人となるが、昭和六二年度首における国鉄の在籍職員数は二七万六〇〇〇人と予想され、余剰人員が約九万三〇〇〇人に上るので、政府及び国鉄は全力を挙げて余剰人員対策に取り組まなければならない、(4) 昭和六二年度までに完全に私鉄並みの生産性を実現することについては現行の国鉄における合理化の推進状況から見てやや無理があり、余剰人員が膨大であることにかんがみ旅客鉄道会社にも余剰人員の一部を移籍させることが適切であるから、これらの事情を勘案して、旅客鉄道会社には鉄道旅客部門について適正要員規模の二割程度を上乗せした要員(一九万人)を移籍することとし、その他バス部門等の要員(一万人)を加えて、昭和六二年度発足時の六社全体の要員数を二〇万人程度とすることが妥当であるが、このうち東日本の旅客鉄道会社の要員数は八万九〇〇〇人であると指摘した。

5  本件意見の答申を受けた政府は、昭和六〇年七月三〇日本件意見を最大限に尊重する旨の閣議決定をし、その旨の政府声明を行って国民の理解と協力を呼びかけた上、本件意見の趣旨に沿って、国鉄改革関連の九法案(日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律、改革法、旅客鉄道会社等法、新幹線鉄道保有機構法、日本国有鉄道清算事業団法、日本国有鉄道退職希望職員及び日本国有鉄道清算事業団職員の再就職の促進に関する特別措置法、鉄道事業法、日本国有鉄道改革法等施行法、地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律の各法案)を第一〇四国会に提出した。

このうち日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律は昭和六一年五月二一日に可決成立し、同月三〇日に公布施行されたが、その余の八法案は衆議院の解散のため廃案となったことから、政府はこれら八法案を第一〇七臨時国会に再提出し、同法案は同年一一月二八日に可決成立し、同年一二月四日公布施行された。

6  昭和六二年四月一日、旅客鉄道会社六社(北海道旅客鉄道株式会社、東海旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社、九州旅客鉄道株式会社及び第一審被告)及び貨物鉄道会社一社(日本貨物鉄道株式会社)が成立し、国鉄が経営していた旅客鉄道事業等は右各旅客鉄道会社に、同じく貨物鉄道事業は右貨物鉄道会社にそれぞれ引き継がれるなど、国鉄が行っていた事業等の大部分は右七社を含む一一の承継法人に引き継がれた(改革法六条、八条ないし一〇条、旅客鉄道会社等法附則九条、改革法附則二項一号、一項)。

他方、国鉄は同日清算事業団に移行し、清算事業団は承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等のほか、臨時に、その職員の再就職の促進を図るための業務を行うものとされた(改革法一五条等)。

7  改革法においては、運輸大臣は、国鉄の職員のうち、旅客鉄道会社、貨物鉄道会社等の承継法人の職員となるものの総数及び承継法人ごとの数を閣議決定を経て基本計画に定めるべき旨規定された(一九条一、二項)。

昭和六一年一二月一六日に閣議決定がされた右基本計画において、承継法人の職員となるものの総数は二一万五〇〇〇人、そのうち第一審被告の職員となるものの数は八万九四五〇人と定められたが、第一審被告の職員となるものとされた右の人数は、本件意見において東日本の旅客鉄道会社の要員数とされたものとほぼ見合っている。

8  昭和六二年四月一日の第一審被告の発足時に第一審被告に採用された社員数は八万二四六九人であった。

右社員数は、前記基本計画に定められた数を下回ったが、右発足時において第一審被告における旅客輸送業務(バス部門を含む。)に必要な要員数を算定すると、七万三〇〇〇人であったから、なお約九五〇〇人の余力人員が存在した。

二  労働契約の成立等の経緯

1  前記第二の一の事実に加え、証拠(甲一一ないし一三、五五ないし五七、乙一四ないし一六、一七の1ないし3、二〇の1ないし3、原審及び当審証人伊藤嘉道)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 昭和六一年一二月四日運輸大臣によって承継法人である各会社ごとに任命された設立委員は、同月一一日開催の第一回設立委員会で各会社の職員の採用の基準を決定し、次いで同月一九日開催の第二回設立委員会で各会社の職員の労働条件を決定した上、同日、右採用の基準及び労働条件を国鉄に示した。

(二) これを受けて、国鉄は、同月二四日から昭和六二年一月七日までの間、設立委員会から示された採用の基準及び労働条件を記載した書面とともに、「私は、次の承継法人の職員となる意思を表明します。」、「この意思確認書は、希望順位欄に記入した承継法人に対する就職申込書を兼ねます。」との記載文言がある意思確認書の用紙を国鉄職員に配布して新会社の職員の募集を行い、採用を希望する会社名が記入された意思確認書を右期間内に職員から回収することによって、採用についての意思確認の作業を実施したが、第一審原告らも、以上の経過に従い、労働条件を記載した書面により第一審被告の労働条件を承知した上、採用を希望する新会社として第一審被告名を記入した意思確認書を右期間内に国鉄に提出した。

(三) 労働条件を記載した前記書面には「就業の場所」として「各会社の営業範囲内の現業機関等において就業することとします。ただし、関連企業等への出向を命ぜられることがあり、その場合は出向先の就業場所とします。」、「従事すべき業務」として「旅客鉄道事業及びその附帯事業並びに自動車運送事業その他会社の行う事業に関する業務とします。なお、出向を命ぜられた場合は、出向先の業務とします。(主な業務) (1) 鉄道事業に関する営業、運転、施設、電気又は車両関係の駅区所における業務 (2) 自動車営業所における業務 (3) 連絡船、さん橋等における業務(北海道旅客鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、四国旅客鉄道株式会社に限る。) (4) 情報システム室における業務 (5) 乗車券管理センターにおける業務 (6) 鉄道病院、保健管理所又は鉄道健診センターにおける業務 (7) 関連事業の業務」と記載されていた。

(四) 国鉄は、意思確認書を提出して新会社への採用を希望した職員の中から、右採用の基準に従って新会社の職員となるべき者の名簿を作成し、これを同年二月七日に新会社の設立委員に提出した。これを受けて、設立委員は同月一二日開催の第三回設立委員会で、名簿に登載された国鉄職員の全員を新会社に採用する旨決定し、同月中旬ころ、当該職員に対し、「あなたを昭和六二年四月一日付けで採用することに決定いたしましたので通知します。なお、辞退の申し出がない限り、採用されることについて承諾があったものとみなします。」と記載した設立委員長名による同年二月一二日付けの採用通知(本件採用通知)をした(第一審原告らについては、第二の一2(二)(1)、3(二)(1)、4(二)(1)のとおり)。設立委員から本件採用通知を受けた国鉄職員は、同年三月下旬ころ、「採用に伴い日本国有鉄道を退職いたします。」と記載した同月三一日付け退職届を国鉄に提出した。

(五) さらに、新会社の設立委員は、本件採用通知をした当該職員に対し、同月一六日以降新会社の発足までの間に、「昭和六二年四月一日付けで、あなたの所属、勤務箇所、職名等については、下記のとおりとなります。」として、新会社における昭和六二年四月一日の勤務箇所・職名等を記載した設立委員長名による通知(本件配属通知)をした(第一審原告らについては、第二の一2(二)(2)、3(二)(2)、4(二)(2)のとおりであり、本件各関連事業本部兼務通知は、第一審原告らに対する本件配属通知の一部を構成する。)。

本件配属通知における新会社の勤務箇所・職名等の記載は、国鉄による三月一〇日人事異動における当該職員の勤務箇所、職名等を、そのまま、新会社の対応する勤務箇所、職名等に機械的に読み替える方法でされた。新会社の設立委員は、発令そのものは発足後の新会社によって行われるべきものとの立場から、その意味での事前通知の趣旨で本件配属通知をしたものであるが、この趣旨を示すために、本件配属通知において、「あなたの所属、勤務箇所、職名等については、下記のとおりとなります。」というような含みのある表現を用いた。

2(一)  改革法二三条は、(1) 承継法人の設立委員は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行うものとする(一項)、(2) 国鉄は、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員に提出する(二項)、(3) 右名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員から採用する旨の通知を受けた者であって附則二項の規定の施行の際現に国鉄職員であるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される(三項)、(4) 承継法人の職員に提示する労働条件の内容となるべき事項等は運輸省令で定める(四項)、(5) 承継法人の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してされた行為とする(五項)、と規定し、改革法施行規則九条は、国鉄職員に提示する労働条件の内容となるべき事項を定めている。

このように、改革法二三条が、採用の通知を受けた者が承継法人の成立の時に採用されるものとしていること、設立委員がした行為は当該承継法人がした行為とするとの定めを置いていること等にかんがみると、同条は、承継法人は、国鉄とは別個の新たな法主体として成立するものであることを前提とした上、国鉄から提出を受けた名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員から採用する旨の通知を受けた者と承継法人との間で、承継法人の成立の時、すなわち昭和六二年四月一日に、当事者間における特別の意思表示を要することなく、労働契約が成立し、その効力を生ずるものと定めたものと解するのが相当である。

(二)  以上によれば、第一審原告らが第一審被告の設立委員から本件採用通知を受けたことによって、昭和六二年四月一日、国鉄とは別個の法主体である第一審被告と第一審原告らとの間で、改革法二三条の規定に基づいて、右当事者間における特別の意思表示を要することなく、労働契約が成立し、その効力を生じたものということができる。

この場合、職員募集に当たって提示された労働条件の内容にかんがみると、右労働契約は、就業の場所を会社の営業範囲内の現業機関等、従事すべき業務を旅客鉄道事業及びその附帯事業並びに自動車運送事業その他会社の行う事業に関する業務(関連事業の業務を含む。)とする概括的なものとして成立したものと認められるから、第一審被告は、第一審原告らの勤務箇所、従事すべき業務等を決定し、第一審原告らにこれを命ずる相当広範囲な労務指揮権を有することが明らかである。

3(一)  前記判示のとおり、改革法二三条の規定上、承継法人の設立委員は、国鉄を通じて職員の募集をし、国鉄から提出を受けた名簿に基づいて採用の通知をする権限を付与されているものの、労働契約そのものは、設立委員と当該職員との間ではなく、承継法人の成立時において承継法人と当該職員との間で成立するものとされ、設立委員は労働契約の一方当事者として位置付けられていないことからすると、設立委員は、本来労働契約上の一方当事者としての使用者の地位にある者でなければすることができない配属発令の権限を有するものではないと解するのが相当である。

なお、旅客鉄道会社等法附則二条二項が、「前項……に定めるもののほか」として「当該会社がその成立の時において事業を円滑に開始するために必要な」業務を挙げていることからすると、右業務は、一項所定の発起人の職務に属しない、いわゆる開業準備行為を指すものと解されるから、設立委員は、承継法人が事業を円滑に開始するために必要とされる限り、右開業準備行為をすることができるものと考えられるが、前記のとおり、もともと設立委員は配属発令の権限を有しないのであるから(なお、二項にいう「業務」の通常意味するところからして、右規定そのものを、設立委員に対して新会社の職員の配属発令の権限を付与する趣旨を含むとは解し得ないことが明らかである。)、右業務に承継法人の職員に対する配属発令の行為は含まれないものというべきである。

(二)  以上によれば、本件配属通知は、新会社の職員に対する配属発令の権限を有しない設立委員によって、事前通知の趣旨で行われたものであるから、それ自体では配属発令としての効力を有しない事実上の措置であることは明らかである(もっとも、前記経緯の下では、設立委員がこのような事前通知を行うことそれ自体は、新会社の発足時に事業を円滑に開始するために必要なものと認められるから、旅客鉄道会社等法附則二条二項所定の「業務」に含まれるものというべきである。)。

三  争点①(本件各訴えの適否)について

1  第一審被告は、第一審原告らをいかなる業務に従事させ、就業の場所をどこに定めるかは、使用者である第一審被告の労務指揮権の範囲内のものとして、労働契約の履行過程における事実行為にかかわる事柄にすぎず、労働契約上の権利義務に変動を及ぼすものではないから、本件各訴えは、いずれも権利義務の確認を求めるものとはいえず、法律上の利益を欠くものと主張する。

第一審被告と第一審原告ら間の労働契約は、就業の場所を各会社の営業範囲内の現業機関等、従事すべき業務を旅客鉄道事業及びその附帯事業並びに自動車運送事業その他会社の行う事業に関する業務(関連事業の業務を含む。)とするものであって、就業の場所、従事すべき業務のいずれについても極めて概括的な定め方をしているにとどまるから、第一審被告が、右労働契約に基づいて第一審原告らの勤務箇所、従事すべき業務等を決定し、これを命ずる相当広範囲な労務指揮権を有することは、前記二2(二)に判示したとおりである。

しかし、第一審原告らは、正当な勤務箇所、業務等に即して労務を提供することによって初めて、所定の賃金請求権を取得し、その他労働契約に基づく正当な処遇を享受することができることからすると、第一審被告の労務指揮権の内容がその主張のような広範囲のものであるとしても、第一審原告らが、その勤務箇所、業務等の確認を訴求する法律上の利益を否定されるいわれはないから、本件各訴えがいずれも権利義務の確認を求めるものとはいえない等とする第一審被告の前記主張は、採用することができない。

2  第一審被告は、昭和六二年四月一日における第一審原告らの発令上の地位は、単なる水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係ではなく、兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)との兼務発令が付されていたのであるから、このような兼務発令を外した形での職務上の地位にあることの確認を求める訴えは、法律上の地位の不安定を除去するという目的を達し得ず、確認の利益を欠く等と主張する。

昭和六二年四月一日における第一審原告らの発令上の地位は、単なる水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係ではなく、兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)との兼務発令が付されていたことは、第一審被告の主張するとおりであるが、水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係の地位は、兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)という兼務発令と性質上不可分のものではなく、兼務発令と無関係に単独で存在し得る職務上の地位であったことは、弁論の全趣旨に徴して明らかである。そうすると、第一審原告らは、このような兼務発令の有無にかかわらない水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係の地位にあることの確認を訴求する法律上の利益を有するものというべきである。

したがって、第一審被告の右主張も、採用することができない。

3  第一審被告は、水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係の職名は第一審原告らの職務上の地位を表さない名目的なものにとどまるから、その地位にあることの確認を求めることはできない旨主張する。

第一審原告らは、国鉄勤務当時の昭和六一年八月一日人活センターの担務に指定されてからは、電車運転士、電気機関士又は車両検修係としての業務に従事したことがなく、昭和六二年四月一日の第一審被告発足時以降も、運転士又は車両係としての業務に従事したことがないことは、いずれも前記判示のとおりである(第二の一2(八)、3(八)、4(八))が、後記六1(一)(3)のとおり、第一審原告らについては、第一審被告の発足時から約一〇日間程度は、水戸運転所において出退勤の管理がされていたことからすれば、少なくともこの間は運転士又は車両係として取り扱われていたものといわざるを得ないから、第一審原告らの水戸運転所運転士又は水戸運転所車両係としての地位が終始全くの名目的なものにとどまっていたとまでいうことはできないというべきである。加えて、弁論の全趣旨によれば、賃金規程上、第一審原告辻川及び同柴田については、運転士の発令により二号俸の加給を受け得るものと認められ、右発令は、少なくとも賃金規程上は意味のある発令ということができるのであるから、第一審原告らは、運転士又は車両係の地位にあることの確認を訴求する法律上の利益を有するものというべきである。

したがって、第一審被告の右主張も、採用することができない。

4  第一審被告は、第一審原告辻川及び同柴田の水戸駅営業指導係の地位にあることの確認を求める予備的請求に係る訴えは、第一審被告が右第一審原告らに対して発令したことのない職務上の地位を、裁判によって形成しようとするものであるから、不適法である旨主張する。

しかし、第一審原告辻川及び同柴田の水戸駅営業指導係の地位にあることの確認を求める予備的請求に係る訴えは、第一審被告の発令によって現に右両名がこのような地位に就いているものと主張して、その地位にあることの確認を求めているものであって、裁判によって新たな地位を形成しようとするものでないことは、その主張自体から明らかである。

したがって、第一審被告の右主張も、採用することができない。

5  以上の次第であるから、第一審原告らの本件各訴えは適法であって、この点に関する第一審被告の主張は、いずれも採用することができないものである。

四  争点②(本件各関連事業本部兼務通知の不当労働行為該当性及び同通知についての人事権の濫用の有無)について

1  設立委員における不当労働行為及び人事権の濫用の有無

第一審原告らの主張は、要するに、第一審原告らに対する三月一〇日人事異動には労働組合法七条一項一号の不当労働行為又ないし人事権の濫用があり、これに基づいて第一審被告の設立委員がした本件配属通知の一部を構成する本件各関連事業本部兼務通知は、この不当労働行為ないし人事権の濫用の違法事由を引き継ぎ、右違法事由は新会社にも引き継がれるから、第一審被告との関係でも無効であるというものである。第一審原告らの右主張は、① 設立委員は、新会社の職員に対する配属発令として、本件配属通知をしたものである、② 設立委員は、新会社の職員の配属の決定を国鉄に委任し、又はこれに代行させるものとし、その履行として国鉄に三月一〇日人事異動を実施させたものであるから、右人事異動に存在する不当労働行為ないし人事権の濫用等の違法事由は、その結果をそのまま新会社の職員に引き直してした配属発令(本件配属通知)に引き継がれる、③ 承継法人の職員の採用について設立委員がした行為は当該承継法人の行為とする旨定めた改革法二三条五項の規定の趣旨は、職員の採用と密接に関連しているその配属発令についても及ぼされるべきであるとの主張を前提とするものである。

そこで、右①ないし③の主張の当否について、以下に検討する。

(一) 本件配属通知の性質(右①の主張の当否)

設立委員のした本件配属通知が事前通知の趣旨で行われたものであって、配属発令としての効力を有しないものであることは、前記二3(二)のとおりである。

(二) 新会社の職員の配属の決定についての委任ないし代行の有無(右②の主張の当否)

(1) 第一審原告らは、改革法二三条に定める新会社の職員の採用手続における国鉄の地位は、新会社の職員採用の準備行為についての設立委員からの委任によるものないし設立委員の代行としてのものである旨主張する。

改革法二三条は、国鉄に対し、新会社の職員の募集の際の意思確認、新会社の職員となるべき者の選定、名簿の作成等の一定の行為を担当させるものとしているが、これは、新会社に採用されるべき職員が国鉄職員に限定され、かつ、極めて短期間のうちに大量の職員が採用されることになるという国鉄の分割・民営化における特殊な事情の下で、新会社の職員の採用に関する権限を設立委員と国鉄の両者に配分し、意思確認、選定、名簿の作成等の一定の事項を国鉄の権限とすることによって、採用手続の合理化を図ったものと解される。この点に関する第一審原告ら引用の橋本龍太郎運輸大臣、林淳司大臣官房日本国有鉄道再建統括審議官の国会答弁等の内容は、いずれも、説明の便宜から出た表現であって、法的に整理された説明ではないというべきである。

したがって、改革法二三条における新会社の職員の採用手続における国鉄の地位は、設立委員からの委任によるものないし設立委員の代行として設立委員の権限に由来するものではなく、法の右の規定によって認められた固有の地位であるというべきであるから、これと異なる第一審原告らの主張は失当というべきである。

(2) 第一審原告らは、「国鉄改革のスケジュール」(甲一二一)の記載内容、設立準備室の設置、昭和六一年二月一二日開催の第三回設立委員会における協議内容などを挙げ、国鉄のした三月一〇日人事異動に関し、それが設立委員から国鉄への職員の配属決定についての委任によるものないし設立委員の代行として行われたものである旨主張する。

イ 証拠(甲一二一、一三一)によれば、昭和六一年一一月末か同年一二月上旬ころ、設立委員会事務局で「国鉄改革のスケジュール」(甲一二一)と題する書面が作成され、右書面は外部にも公表されたこと、右書面には、① 設立委員が、承継法人の労働条件・採用の基準を決定し、国鉄に通知する(昭和六一年一二月)、② 国鉄が、これを受けて、配属希望調査を行い、調査結果を集計・分析・調整した上、名簿を作成して設立委員に提出する(昭和六二年二月)、③ 設立委員が新会社の職員を選考して採用者を決定する(同月)、④ 設立委員が職員の配属決定を国鉄に内示する(同年三月)、⑤ 国鉄が配転計画を策定し、配転を発令する(同月)という内容の項目が時の順序に従ってチャートとして記載されていることが認められる。

しかし、証拠(当審証人伊藤嘉道)によれば、右書面は、新会社への移行の手順がまだ固まっていない段階で、設立委員事務局の者が、今後の進行についての一応のイメージという程度のものとして作成した事務的な内部資料にすぎず、右書面に記載されたような内容のスケジュールが設立委員会で決定されたことはないことが認められるから、右書面をもって、設立委員から国鉄に対し職員の配属決定についての委任等があったことを示すものということはできない。

ロ 証拠(乙四五、当審証人伊藤嘉道、同浅井克己)及び弁論の全趣旨によれば、国鉄は、昭和六一年一一月二八日、国鉄の経営する事業の新会社への円滑かつ確実な移行を推進することを目的として本社に移行推進委員会を設置し、これと併せて、従来の地区経営改革実施準備室等を発展的に解消し、同年一二月三日、同委員会の指揮下の組織として、各会社ごとに設立準備室を設置したことが認められる。

しかし、右証拠によれば、設立準備室の業務は、① 旅客鉄道会社等の設立等に伴う具体的な業務移行の準備及びその実施の推進に関すること、② 旅客鉄道会社等の設立等に関連して、他の設立準備室及び部外関係機関との連絡調整に関すること等であるが、具体的には、①の業務は、新会社の規程、マニュアル等の策定、新会社の設立手続、新会社のロゴマークの検討、新会社の意思決定方式の検討と集約などを内容とし、②の業務は、①の業務の進ちょく状況、国鉄主管局からの指示事項に関する調整事項等の移行推進委員会への報告、他の会社の設立準備室との調整などを内容とするものであることが認められるから、設立準備室の業務は三月一〇日人事異動と関係がないものといわざるを得ず、設立準備室の設置をもって、三月一〇日人事異動についての設立委員からの委任等の存在を示すものということはできない。

ハ 証拠(原審及び当審証人伊藤嘉道)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(イ) 国鉄は、昭和六二年二月一二日に第三回設立委員会で新会社に採用される職員が決定されたこと、同年三月上旬の段階で希望退職者や公的部門等への転出者等の人数がおおむね確定できる状況になったことなどを受けて、① 三月三一日までの国鉄の事業を滞りなく継続すること及び② 三月三一日から四月一日にかけての新会社への事業の移行に支障を来さず、新会社が円滑な事業運営を開始することができるようにすることの二点を目的として三月一〇日人事異動を実施した。

(ロ) 三月一〇日人事異動に先立ち、昭和六二年一月下旬ころ、国鉄は監督官庁である運輸省に対し、三月上旬に新会社への移行を念頭においた人事異動を行う予定であるが、新会社がこの人事異動による体制で事業を引き継いでもらえば、新会社の発足がスムーズに行く旨の申入れをした。

右申入れを受けた運輸省では、二月一二日開催の右設立委員会に担当者が同委員会事務局としての立場で出席し、国鉄からの右申入れについて報告するとともに、四月一日の勤務箇所がどこになるのかといった事柄を何らかの書面の形で個々の職員に知らせておいた方が新会社への移行に際して混乱が生じないのではないかと述べ、三月上旬に実施される国鉄の人事異動を踏まえて、設立委員から各職員に対して四月一日の勤務箇所、職名等を前もって通知する措置を採ることを提案し、右設立委員会で同提案が採択された。

(ハ) 新会社の設立委員は、三月末日から四月一日にかけて列車の運行を間断なく継続し、新会社の円滑な業務運営を開始するためには、三月一〇日人事異動における勤務箇所、職名等に対応する新会社の勤務箇所、職名等として取り扱うのが最良の方法であるという見地から、本件配属通知をしたものである。

(ニ) 他方、国鉄としては、新会社が円滑な事業運営を開始することができるようにすることは、改革法二条二項に基づく国鉄の責務であるとの立場から三月一〇日人事異動を実施したものである。

以上によれば、昭和六二年二月一二日開催の第三回設立委員会において、新会社発足に際しての職員の配属の決定につき、設立委員がこれを国鉄に包括的に委任する旨の契約が成立したというような事実を認めることはできず、三月一〇日人事異動は、国鉄独自の判断でされたことが明らかである。

ニ したがって、国鉄のした三月一〇日人事異動が、設立委員から国鉄への職員の配属決定についての委任によるものないし設立委員の代行として行われたものである旨の第一審原告らの主張は、採用することはできない。

(3) 以上によれば、設立委員と国鉄との間には、職員の配属決定に関し、関係法令上委任ないし代行の関係がないことはもとより、具体的事実関係としても、そのような委任ないし代行の関係を生じさせるような合意があったと認めることができない。

(三) 改革法二三条五項の規定の趣旨(右③の主張の当否)

第一審原告らは、設立委員がした行為は当該承継法人の行為とする旨定めた改革法二三条五項の規定の趣旨は、職員の採用と密接に関連している職員の配属発令についても及ぼされるべきである旨主張するが、前記二3(一)のとおり、設立委員は、労働契約上の一方当事者としての使用者の地位にある者であることが前提となる配属発令の権限を有するものではないと解されるから、右主張も採用することができない。

(四) 以上によれば、設立委員によって行われた本件配属通知の一部を構成する本件各関連事業本部兼務通知は、三月一〇日人事異動の不当労働行為ないし人事権の濫用の違法事由を引き継ぎ、その責任は設立委員を経て新会社に帰属するから、第一審被告との関係でも無効であるとする第一審原告らの主張は、右主張の前提となる前記①ないし③の主張がいずれも失当であるから、三月一〇日人事異動にその主張のような不当労働行為ないし人事権の濫用の違法事由が存在するか否かを判断するまでもなく、採用することができない。

2  本件通達における不当労働行為ないし人事権の濫用の有無

第一審原告らは、仮に、設立委員のした本件配属通知が法的には内示ないし事前通知であって、本件通達がこれを同日発令したものとみなしたものであるとしても、本件通達中、第一審原告らに対する本件各関連事業本部兼務通知を同日発令したものとみなした部分は、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し無効であるとも主張する。

証拠(乙三八、原審証人伊藤嘉道、同成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、昭和六二年四月一日、第一審被告は、「昭和六二年四月一日における東日本旅客鉄道株式会社の社員の採用、勤務指定、等級、呼称及び採用給については、別に辞令を発するものを除き、東日本旅客鉄道株式会社設立委員会委員長名の通知のとおり、発令があったものとみなす。」との内容の「採用並びに勤務指定等について」と題する本件通達を発し、本件通達は、同日付け会社報「JR東日本報」(号外その4)に掲載されて周知手続がとられ、そのころ、第一審原告らを含む第一審被告の社員らは、右会社報を閲覧することによりこれを知ったこと、第一審被告は、本件配属通知の受領者に対して改めて個別の辞令を交付することを一切行わなかったことが認められる。

そして、第一審被告の設立委員がした本件配属通知が本件通達にいう「東日本旅客鉄道株式会社設立委員会委員長名の通知」に含まれることは本件通達の記載の趣旨から明らかであるから、右認定の事実によれば、第一審原告らに対するもののほか、第一審被告の設立委員のしたすべての本件配属通知は、本件通達によって、昭和六二年四月一日付け配属発令としての効力を有するに至ったものというべきである。しかし、証拠(原審証人伊藤嘉道、同成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、本件通達は、三月末日から四月一日にかけて列車の運行を間断なく継続し、新会社の円滑な業務運営を開始するためには、三月一〇日人事異動における勤務箇所、職名等に対応する新会社の勤務箇所、職名等を、新会社の発足時における社員の勤務箇所、職名等として取り扱うのが最良の方法であるとして第一審被告の設立委員の判断と同一の判断の下に、第一審被告が、社員おのおのに対する個別的な判断を一切経由することなく、本件配属通知をそのまま四月一日付けの第一審被告の配属発令をみなす措置を採ったものと認められるから、本件通達について、第一審原告らに対する不当労働行為を問題にする余地はないものというべきである。

また、国鉄から新会社への移行時において列車運行に万が一にも混乱を生じさせることなく、新会社の円滑な業務運営を開始させることは、国民生活及び国民経済にとって緊急な重要課題であると考えられることからすると、新会社移行の直前に国鉄がした三月一〇日人事異動による人事配置をそのまま踏襲した内容の本件配属通知について、第一審被告が、前記のような判断に基づいてこれを一律に四月一日付けの第一審被告の配属発令とみなす措置を採ったことをもって、人事権の濫用に当たるとすることもできない。

したがって、第一審原告らの前記主張も、採用することができない。

3  以上の次第で、第一審原告らは、第一審被告の発足時である昭和六二年四月一日付けで関連事業本部の兼務を発令されたものであるが、右兼務発令をもって、労働組合法七条一号の不当労働行為、人事権の濫用に該当するということはできないというべきである。

五  争点③(本件各兼務解消発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無)について

1  第一審原告らは、本件各兼務解消発令は、業務上の必要性がないのに、不当労働行為意思に基づいてされた不利益取扱いであるから、労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に該当し、無効である旨主張するので、以下に検討する。

(一) 第一審被告における関連事業の位置付け

(1) 昭和六二年四月一日の第一審被告の発足時に第一審被告に採用された社員数は八万二四六九人であったが、右発足時の旅客輸送業務(バス部門を含む。)に必要な要員数は七万三〇〇〇人であったから、なお約九五〇〇人の余力人員が存在していたことは、前記一8に判示したとおりである。

(2) 証拠(乙二九、三二、原審証人伊藤嘉道、原審及び当審証人成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告の発足後について、その社員数と余力人員(鉄道輸送必要社員を超える人員。以下同じ。)数の推移を見ると、会社全体では、昭和六二年四月一日が八万二五〇〇人、九五〇〇人、同年八月一日が八万三一〇〇人、一万〇一〇〇人、昭和六三年四月一日が八万二九〇〇人、一万三八〇〇人、平成元年四月一日が八万二七〇〇人、一万五二〇〇人、平成元年九月一日が八万二一〇〇人、一万四六〇〇人であり、水戸支社においては、昭和六二年四月一日が三六二〇人、二二〇人、同年八月一日が三七一〇人、三二〇人、昭和六三年四月一日が三七〇〇人、五〇〇人、同年一〇月一日が三七〇〇人、五七〇人、平成元年四月一日が三七四〇人、六九〇人、平成二年四月一日が三六三〇人、七〇〇人であり、第一審被告の余力人員数は、会社全体としても、水戸支社としても、おおむね漸増の傾向にあるが、これは、第一審被告発足後行われてきた鉄道輸送事業の合理化、効率化の努力によるものであることが認められる。

(3) 証拠(乙三二ないし三六、原審証人伊藤嘉道、原審及び当審証人成島島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

イ 前記のとおり、水戸支社における余力人員数は相当数に達していたためその活用策も講じられてきたが、主な活用先である関連事業の従事人員数と他会社への出向人員数の推移を見ると、昭和六二年四月一日が七〇人、五〇人、同年八月一日が七〇人、七〇人、昭和六三年四月一日が一三〇人、一三〇人、同年一〇月一日が一八〇人、一四〇人、平成元年四月一日が二〇〇人、一八〇人、平成二年四月一日が二四〇人、二四〇人であった。

ロ 水戸支社における関連事業のうちで最も大きな柱は直営売店の経営であったが、直営売店は、国鉄から引き継いだ一四店舗に加え、第一審被告の発足後平成二年六月までに一七店舗が新規に開業し、同月現在で合計三一店舗に増加した。これは、国鉄が直営売店を開業するに当たっては、日本国有鉄道法による種々の制約があったのに対し、民営化された第一審被告においては、このような制約を受けずに直営売店の新規展開をすることが可能であることが大きく関係していた。

ハ 第一審被告の発足以来、水戸支社においては、余力人員の活用による増益ないし経費削減を目的として、直営売店の経営以外にも種々雑多な関連事業を試みたが、その例を挙げると、運輸関係では貨車解体(清算事業団所有の不用貨車について解体業務の委託を受け、いわき地区の内郷ヤードで合計五〇〇両を解体したもの)、グリーン・サービス(店舗やオフィスに置く観葉植物のリース業の直営)、休管清掃(乗務員等が仮眠をとる休養管理室のシーツ、枕カバーの取替え、室内清掃等の業務の直営)、ベンデング事業所(ジュース等の自動販売機の管理及び商品補充の直営)、車両改造(車両の安全装置の取付け、車両シート等の改造工事の直営)、DC冷房工事(ディーゼル気動車の防火改良工事の直営)等が、工務関係では無人駅物販清掃(駅舎のある無人駅における物品販売等のサービス及び清掃の実施)、用地管理室(国鉄から引き継いだ土地の承継登記業務の実施)、住宅リフォーム(古い住宅の改築工事の直営)、用地保守G(国鉄から引き継いだ土地の境界を明示するための用地杭の設置等)、コンクリート工場室(右用地杭の製造業務の直営)、フラワー・サービス(プランターに入れて駅に配置する草花の植栽業務の直営)、CFP(コンピューター・フィルム・プリント、すなわちコンピューター印刷による駅名板、看板等の製造業務の直営)、勿来溶接室(レールのつなぎ目の溶接工事の直営)等があった。

ニ このような積極的な事業展開を背景として、水戸支社における関連事業収入は、昭和六二年度一七億六一〇〇万円(全収入に占める関連事業収入の割合2.9パーセント)、昭和六三年度二一億四一〇〇万円(同3.3パーセント)、平成元年度(推定)二七億四九〇〇万円(同4.1パーセント)と着実に増加した。

ホ 第一審被告においては、関連事業収入の割合が他の民間鉄道会社に比較して非常に低いことから、今後収益を拡大させ、会社を発展させるためには関連事業収入の比重を高め、将来的には関連事業収入を鉄道輸送収入と同程度にまで引き上げることが重要な課題であるとの経営方針の下に、関連事業、特に直営店舗の要員育成、ノウハウの蓄積に力を入れている。

このような経営方針を背景として、第一審被告全体としても、関連事業に従事する社員数は発足時以降増加し、昭和六二年四月一日一九〇〇人、同年八月一日三一〇〇人、昭和六三年四月一日四一〇〇人、平成元年四月一日四九〇〇人、同年九月一日四九〇〇人となり、このうち直営売店については、昭和六二年四月一日一二〇〇人、平成元年九月一日三三〇〇人となっている。

(4) 以上のとおり、水戸支社を含む第一審被告においては、関連事業は、① 発足以来相当数の余力人員を抱えていたことから、余力人員の活用策の一環としての役割があったが、同時に、長期的には、② 今後収益を拡大させ、会社を発展させるためには関連事業部門収入の比重を高めることが重要な課題であるという、収益拡大策の一環としての役割が期待されているということができる。

(二) 兼務発令の解消の経緯

証拠(原審証人伊藤嘉道、同成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 兼務発令の形態は国鉄において広く行われていたもので、例えば、国鉄において電車運転士の職名を持つものが関連事業の一つである直営売店の業務に従事する場合には、「営業係」等の兼務発令を行うこととされる例であった。国鉄において、従来の職名を外さずに兼務発令を付するという、いわば暫定的な意味合いを持つ発令方式が採られたのは、国鉄では関連事業の将来的な位置付けが明確にされていなかったことが多分に関係していたが、このような兼務発令の形態は、国鉄最後の異動である三月一〇日人事異動でも維持された。

(2) 前記判示のとおり、第一審被告の発足時の社員の配置は、三月一〇日人事異動の勤務箇所、職名等を機械的に読み替えたものによっていたことから、発足時の第一審被告においても、このような兼務発令の形態が踏襲されることとなった。例えば、第一審被告において運転士の職名を持つものを直営売店の業務に従事させる場合には、運転士の職名に加えて、その社員を活用するのに必要な職名である何々駅の兼務を付し、さらに、関連事業本部の兼務を付するという兼務発令の形態が採られた。

(3) 第一審被告においては、発足後の一年間は、関連事業の運営は暗中模索の状態であったが、昭和六三年四月一日に至って、新たな位置付けの下における関連事業の将来の発展(前記(一)(4)参照)を期して、関連事業本部の組織改正が行われた。右組織改正の要点は、① 従来の関連事業本部を関連事業本部(直営売店等の業務を所管)と開発事業本部(リゾート開発等の大規模な開発等の業務を所管)の二部門に分けるとともに、関連事業本部所管の関連事業の運営はできるだけ地方に密着した形で運営することとし、例えば直営売店に対する指示はすべて地方の権限とする、② 関連事業に従事する者の職名が複数箇付されている現状では、社員にとって、自分はどういうことをすればどのようなルートで昇進していくかという昇進経路が非常に分かりにくいことから、関連事業従事者の昇進体系を明確化してその勤務意欲を高めるなどの必要上、この段階で兼務発令を徹底的に解消するということにあった。

(4) 以上の組織改正に伴い、昭和六三年四月一日又はこれに接着した時期に、第一審被告の関連事業従事者全員の兼務発令が解消され、営業係、営業指導係等の職名に一本化された(第一審原告らについては、第二の一2(六)、3(六)、4(五)のとおり。)。

(三) 以上によれば、第一審被告における兼務発令の解消は、昭和六三年四月一日の関連事業本部の組織改正に伴い、関連事業従事者全員を対象としてすべて一律に行われ、第一審原告らに対する本件各兼務解消発令もその一環として行われたものであるから、本件各兼務解消発令が第一審原告らに対する不当労働行為となると解する余地はないというべきであり、また、右の兼務発令の解消が関連事業の新たな位置付けを背景として、前記(二)(3)②に判示したような関連事業従事者の昇進体系の明確化、その勤務意欲の向上等の必要に基づいて行われたことからすると、本件各兼務解消発令が人事権の濫用に当たるとすることはできないといわなければならない。

2  前記四及び以上に判示したところによれば、本件各関連事業本部兼務通知(又はこれを昭和六二年四月一日付け配属発令とみなした本件通達)及び本件各兼務解消発令について、これを労働組合法七条一号の不当労働行為又は人事権の濫用に当たるとする第一審原告らの主張は理由がないから、第一審原告らの主位的請求はいずれも失当というべきである。

六  争点④(本件各転勤発令の不当労働行為該当性及び同発令についての人事権の濫用の有無)について

1  本件各転勤発令の経過

前記第二の一の事実に加え、証拠(甲三〇、三二、三四、三八、三九、五八ないし六〇、六一・八四の各1、2、八五の1ないし3、一〇六、一〇七の1ないし4、乙二七の1、2、原審及び当審証人成島陸郎、当審証人松崎哲士郎、原審及び当審における第一審原告辻川慎一、同福田弘行、同柴田利夫各本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 第一審原告辻川及び同柴田(共通)

(1) 第一審原告辻川及び同柴田は、国鉄時代の昭和六一年八月一日から水戸駅北口駐車場に配置され、関連事業の一つである駐車場の業務に従事していたが、いずれも第一審被告の昭和六二年四月一日付け配属発令(第一審被告における勤務箇所・職名が水戸運転所運転士(二級)兼水戸駅兼関連事業本部(水戸在勤)となる旨の設立委員による本件配属通知が、本件通達によって第一審被告の同日付け発令とみなされたことによるもの)に基づき、四月一日から数日間は、引き続き右駐車場の業務に従事した。しかし、第一審被告は、右駐車場の業務を国鉄から引き継がず、右駐車場用地は三月三一日清算事業団に移管されたため、第一審原告辻川、同柴田が右駐車場の業務として実際に行ったのは、机、いす、ロッカー等の片付け、帳簿の整理など残務整理業務のみであり、右のとおりそれも右数日間で終了した。

そこで、第一審被告としては、第一審原告辻川、同柴田を、早急に他の勤務箇所に異動させる必要があったが、前記二2(二)に判示したとおり、第一審被告と第一審原告辻川、同柴田との間で成立した労働契約上、就業の場所及び従事すべき業務は概括的に定められており、運転士など特定の職種に限定されているものではなく、第一審被告は、第一審原告らの勤務箇所、従事すべき業務等を決定し、これを命ずる相当広範囲な労務指揮権を有しているものであった。

(2) ところで、第一審被告全体としても、また水戸支社としても、昭和六二年四月一日の発足時から既に多数の余力人員を抱えていたことは、前記五1(一)(2)に判示したとおりであるが、水戸運転所においても事情は同様であり、右発足時の水戸運転所の配属社員(兼務発令のものを含む。)約二五〇人のうち、余力人員は約五〇人に達していた。右余力人員中三七人は、四月一日現在で、出向七人、ボイラー四人、勝田駅直営売店「モンタニエ」五人、勝田駅の他の直営売店一人、東海駅直営売店一人、オートセンター五人、駐車場五人(第一審原告らを含む。)、運行部の他職兼務一人、転換教育八人という配置になっていたが、残りの約一三人の過員の処理ができていない状態にあった。したがって、水戸駅北口駐車場の業務が終了した後の第一審原告辻川、同柴田を水戸運転所内の過員に加えれば、実際の仕事がなく、ただぶらぶらさせるという結果とならざるを得ないが、第一審被告としては、このような事態を生じさせることは、何としても避けたいところであった。

また、第一審原告辻川及び同柴田の経歴を見ると、国鉄時代の第一審原告辻川の電車運転士としての乗務歴は二年弱程度、第一審原告柴田の電気機関士としての乗務歴は三年弱程度であって、いずれも電車運転士ないし電気機関士としての乗務歴はそれほど長いものではなく、国鉄から昭和六一年八月一日人活センター担務指定を命じられて以来、共に関連事業の業務に従事して第一審被告の発足を迎えるという経歴を有していた。

一方、第一審被告において、関連事業は、将来の収益拡大のための大きな役割が期待されていたことから(前記五1(一)(4))、第一審被告としては、早急に関連事業の要員を養成する必要に迫られていた事情があった。

(3) そこで、第一審被告は、以上のような① 第一審原告辻川、同柴田との労働契約の内容、② 水戸運転所の過員状況、③ 第一審原告辻川、同柴田の国鉄以来の経歴、④ 関連事業の要員の養成の必要等の諸点を考慮した上、第一審原告辻川、同柴田を、いずれも、関連事業の要員として養成することとして四月七日の発令をし、その後も同様の方針の下に、本件各転勤発令を行った。

なお、昭和六二年四月一日から新たな勤務箇所への赴任までの約一〇日間における第一審原告辻川、同柴田に対する出退勤の管理は、現場長の了解に基づき、水戸運転所において行われていた(なお、この点は、第一審原告福田も同様であった。)。

(二) 第一審原告辻川

(1) 昭和六二年四月七日の発令

イ 第一審被告は、同日、第一審原告辻川に対し平駅営業係兼務を命じ、同原告を同駅旅行センター分室に配置した。

第一審原告辻川の赴任当時、平駅旅行センター分室の配置要員は、助役二人、その他の社員三人(第一審原告辻川を含む。)の合計五人であったが、第一審原告辻川の業務は、駅構内の社員駐車場の管理(社員以外の自動車の駐車を見付け次第、これに駐車禁止の張り紙をすること等を主な仕事内容とするもの)であり、右業務は、せいぜい午前・午後各約三〇分で終了する程度の軽作業にすぎなかった。同年六月ころからは、新たに、特急券、オレンジカードの販売等の業務も加わったが、これによっても、第一審原告辻川が一日に行うべきものとされた仕事は量的にも非常に少なく、同原告は勤務時間の大半を無為に過ごしていた。

ロ 第一審原告辻川は、肩書地(茨城県ひたちなか市湊中央二丁目一番一五号)所在の自宅から転勤先の平駅までは、湊線・常磐線経由、勝田駅乗換えの通勤経路により、電車で片道約二時間程度の通勤時間を要するところから、転勤後ほどなく福島県いわき市所在の第一審被告の社員寮に入居して、株式会社日立製作所那珂工場(茨城県ひたちなか市)に勤務中の妻とは別居していた。

さらに、第一審原告辻川は、動労水戸執行委員長としての活動をする立場にあったことから、平駅での勤務終了後、午後七時半に水戸駅構内にある動労水戸の組合事務所に赴いて午後九時から会議を招集し、深夜に会議を終了するというようなことがしばしばあり、このような場合は、肩書地所在の自宅に宿泊し、翌日午前五時に起床して平駅に出発して勤務に就くという状態で、時間的に極度に切り詰めた生活をすることとなった。

(2) 同年一一月一日の発令

イ 同年一一月、国鉄から引き継いだ土地についての承継登記事務を担当する用地管理室が水戸支社に開設されたが、大甕駅直営売店に右登記事務の適任者がいたので、第一審被告は、その者を用地管理室に異動させ、その後任に東海駅直営売店「ルトラン東海」に勤務する社員を充てた。そこで、第一審被告は、右転出者の補充として、同日、第一審原告辻川に対し、東海駅兼務、関連事業本部兼務、東海在勤を命じ、同原告を右直営売店に配置した。

東海駅直営売店「ルトラン東海」は、東海駅構内に設置されたうどん、そばを販売する売店であるが、三人の社員が勤務し、第一審原告辻川は、その店長として、一一月一日以降店長手当月額三〇〇〇円の支給を受けていた。

ロ 東海駅への転勤によって、自宅から勤務先までの通勤時間は約四〇分程度に短縮されたため、第一審原告辻川は再び自宅から通勤することとし、妻との別居を解消した。

他方、東海駅から動労水戸の組合事務所のある水戸駅までは電車で約一五分程度であったため、第一審原告辻川の組合活動の便宜は平駅での勤務時に比較して大幅に改善されることとなったが、組合事務所への集合や組合員間の連絡等には依然としてある程度の支障が残った。

(3) 平成五年一〇月一五日の発令

イ 第一審被告は、東海駅直営売店「ルトラン東海」の売上げが少なく、将来の売上げの増加が期待できなかったため、同日をもってこれを閉店した。そこで、第一審原告辻川を異動させる必要が生じたが、第一審被告は、同原告の自宅からの常磐線の最寄り駅が勝田駅であるという通勤の便宜を考慮して、同日、同原告に対し、勝田駅営業係を命じ、同原告を勝田駅のキヨスクタイプの直営売店「ピッコロ勝田」(社員三人)に配置した。

ロ 勝田駅への転勤によって、第一審原告辻川の通勤時間は更に短縮され、自宅から勤務先まで約三〇分程度になり、昭和六二年四月七日の発令前の勤務箇所である水戸駅に比較しても更に通勤時間が短縮された。また、勝田駅から隣りの駅の水戸駅までは電車で約五分程度の短時間の距離にあることから、水戸駅構内の動労水戸の組合事務所への集合はもとより、組合員間の連絡等にも支障がなくなった。

(三) 第一審原告柴田

(1) 昭和六二年四月七日の発令

イ 第一審被告は、同日、第一審原告柴田に対し、高萩駅営業係兼務、関連事業本部兼務、高萩在勤を命じ、同原告を高萩駅直営売店でラーメンなどの販売を営む「高萩トキワ店」に配置した。それまで合計四人が勤務していた右直営売店は、第一審原告柴田の転入によって合計五人の社員が勤務することになったが、その一か月後に一人、さらに同年七月下旬にも更に一人が転出した。

ロ 第一審原告柴田は、右発令当時、水戸市所在の第一審被告の独身寮(千波寮)に居住していたところ、右発令により、水戸駅から勤務先である高萩駅まで、電車で約四〇分程度の通勤時間を要することになった。このため、第一審原告柴田は、動労水戸の水戸支部執行委員長代行としての活動に困難を来し、その後の昭和六三年一月動労水戸の執行委員に選出されたが、右執行委員としての活動についても、水戸駅構内にある動労水戸の組合事務所への集合や組合員間の連絡等に支障があった。

なお、第一審原告柴田は、右発令後、前記独身寮から退去して、一時は肩書地(茨城県鹿島郡旭村田崎一二八七番地の二)所在の両親宅から通勤したが、間もなく水戸市城南二丁目一五番三一号湯浅ハイツA―二〇一号に居室を借り、第一審被告にもその旨の届け出を行い、再び水戸市内から通勤するようになった。

(2) 平成二年三月二〇日の発令

イ 第一審被告は、同日、第一審原告柴田に対し大甕駅営業指導係を命じ、同原告を大甕駅直営売店でラーメンなどの販売を営む「ルトラン大甕」に配置したが、右発令は、右直営売店に勤務していた社員一人が定年で退職したため、右退職者の補充として行われたものであった。右直営売店は、第一審原告柴田を含め、三人の社員が勤務していたが、同原告の転入後約八か月間にわたって一人の長期病欠者が出たため、その間は同原告ほか一人において売店の業務を運営した。

ロ 大甕駅への転勤によって、第一審原告柴田の通勤時間は電車で約二〇分程度になり、動労水戸の執行委員としての活動の便宜は高萩駅勤務時とに比較して大幅に改善されたが、組合事務所への集合や組合員間の連絡等に対する支障は、ある程度残っていた。

(3) 平成四年三月一日の発令

イ 第一審被告は、右「ルトラン大甕」の営業成績が悪く、同年二月末日閉店することとしたため、第一審原告柴田を他に異動させる必要があったところ、一方で、助役一人とその他の社員七人で運営されていた勝田駅直営売店「モンタニエ」の社員一人が同日退職した。そこで、第一審被告は、右退職者の補充として、第一審原告柴田の通勤の便宜をも考慮して、同日、同原告に対し勝田駅営業指導係を命じ、同原告をパンなどの販売を営む右「モンタニエ」に配置した。

ロ 勝田駅への転勤によって、第一審原告柴田の通勤時間は、水戸市内の前記住居を前提にすると、電車で約五分程度に短縮され、水戸駅構内の動労水戸の組合事務所への集合、組合員間の連絡等にも支障がなくなった。

もっとも、第一審原告柴田は、高齢の父親が心臓病で入院した等の事情があったことから、右発令前の平成三年一〇月に、水戸市内の前記住居を引き払って再度肩書地所在の両親宅に転居し、同所から通勤するようになっていた。このため、第一審原告柴田は、転勤先である勝田駅まで自動車で約三五分ないし四〇分の通勤時間を要することとなったが、同原告が右発令前に第一審被告に提出していた自己申告書(提出日平成三年九月八日)に記載された住所は、依然として「水戸市城南二丁目一五番三一号湯浅ハイツA―二〇一号」のままであったから、第一審被告は同原告に対する右発令の時点で右転居の事実を知らず、同原告が相変わらず水戸市内に住居を有するものと考え、その通勤の便宜をも考慮して右発令をしたものであった。

2  第一審被告当局者の反組合的言動等

(一) 証拠(甲七三・七四の各1ないし7、原審証人成島陸郎、原審における福田弘行本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 昭和六二年四月に開催された水戸支社総務課主催の総合現場長会議の集団討議で、参加者から、「反会社的意識の強い人」や「分割民営に今もって反対している」人に対して「出向させて意識を改革させる」、「組合意識の強い人」や「組合の仲間意識が強い」人に対して「意識改革のためあらゆる手段により指導する」、「会社をつぶしてもかまわないとの思想の持ち主に対して辞めさせる方策を採る」、「経営方針に従えない者は考え方が合致する企業に転職させる」、「教条主義、主張で飯が食べていけると思っている」人に対して「勇気をもって転勤転職を行なっていく」、「会社方針に反対している」人は「遠隔地に転勤させる」、「基本的には辞めてもらう」等の意見が出されたが、水戸支社総務課はこれらの意見をまとめた文書を作成し、右文書を業務上の参考資料として、総務課人事担当課長名で参加者に郵送した。

(2) 同年五月二五日に第一審被告の本社で開催された「昭和六二年度経営計画の考え方等説明会」において、第一審被告の当時の松田昌士常務取締役は、「会社にとって必要な社員、必要でない社員の峻別は絶対に必要」、「会社の「方針派」と「反対派」が存在する限り、特に東日本は別格だが、穏やかな労務政策を採る考えはない。「反対派」は峻別し、断固として排除する。」などと発言した。

(3) 第一審被告代表取締役社長住田正二は、同年八月に開催された東日本旅客鉄道労働組合(以下「東鉄労」という。)の統一大会において「今後も皆さん方と手を携えてやっていきたいと思いますが、そのための形としては一企業一組合というのが望ましいということはいうまでもありません。残念なことは今一企業一組合という姿ではなく、東鉄労以外にも二つの組合があり、その中には今なお民営分割反対を叫んでいる時代錯誤の組合もあります。……このような人たちがまだ残っているということは、会社の将来にとって非常に残念なことですが、この人たちはいわば迷える子羊だと思います。皆さんにお願いしたいのは、このような迷える子羊を救ってやって頂きたい。皆さんがこういう人たちに呼びかけ、話し合い、説得し、皆さんの仲間に迎え入れて頂きたいということで、名実共に東鉄労が当社における一企業一組合になるようご援助頂くことを期待し……。」などと発言した。

(二) 以上のうち、(1)の事実は、水戸支社総務課が、討議参加者のした発言を文書にまとめた上、これを業務上の参考資料として総務課人事担当課長名で参加者に送付したものであるが、分割・民営化に反対する労働組合を非難する等の反組合的な発言が多数掲載された文書を討議参加者である現場長の参考資料に供する措置をとった点において、分割・民営化に反対する労働組合を嫌悪する第一審被告の意図を推認させるものである。また、(2)及び(3)の事実は、いずれも、会社の方針に反対する労働組合との妥協を排し又は分割・民営化に反対する労働組合がなくなることを期待する旨を表明した第一審被告の役員の公の場での発言であり、会社の方針ないし分割・民営化に反対する労働組合(前記第二の一5に判示したところに照らし、動労水戸もこのような労働組合に含まれることは明らかである。)を嫌悪する第一審被告の意図を示すものというべきである。

3  本件各転勤発令の効力の検討

(一) 証拠(乙二二の1)によれば、第一審被告の就業規則二八条一項は「会社は、業務上の必要がある場合は、社員に転勤、転職、昇職、降職、昇格、降格、出向、待命休職等を命ずる。」と規定し、業務上の必要性がある場合には社員に転勤を命ずることができるものとしている。そこで、以下において、本件各転勤発令が右規定にいう業務上の必要に基づいてされたものかどうか及び本件各転勤命令について、それが労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するか、又は人事権の濫用に当たるかどうかを検討する。

(二) ところで、本件各転勤発令は、そのいずれもが、第一審原告辻川及び同柴田を関連事業の枠内において具体的な勤務場所等を指定する内容のものであることは、その発令経過から明らかである。

そこで、まず、第一審被告が、第一審原告辻川及び同柴田をこのような関連事業に就労させることとしたこと自体において、それが労働組合法七条一号の不当労働行為に該当し又は人事権の濫用に当たるか否かを検討すると、前記1(一)(3)に判示したとおり、第一審被告は、① 第一審原告らの勤務箇所、従事すべき業務等を決定し、これを命ずる相当広範囲な労務指揮権を有するものとされている労働契約の内容、② 発足時の配属社員(兼務発令のものを含む。)約二五〇人のうち、約五〇人もの余力人員を抱えていた水戸運転所の過員状況、③ 国鉄時代における第一審原告辻川の電車運転士としての乗務歴は二年弱程度、第一審原告柴田の電気機関士としての乗務歴は三年弱程度で、いずれもそれほど長いものではなく、しかも、昭和六一年八月一日以降、共に関連事業の業務に従事して第一審被告の発足を迎えているという、第一審原告辻川、同柴田の国鉄以来の経歴、④ 第一審被告の将来の収益拡大のための大きな役割が期待されていた関連事業について、早急にその要員を養成する必要性の存在等を考慮した上、第一審原告辻川、同柴田を、いずれも関連事業要員として養成することとしたものであるから、第一審原告辻川及び同柴田を関連事業に就労させることとした第一審被告の人事権の行使自体は、正に業務上の必要に基づくものというべきであって、これを人事権の濫用に当たるということはできず、また、前記2に判示した第一審被告当局者の反組合的言動等の存在を勘案しても、これを不当労働行為意思を決定的動機としたものと見ることも困難というべきである。

(三) そこで、次に、本件各転勤発令につき、以上の点を除いた具体的な勤務指定における不当労働行為該当性ないし人事権の濫用の有無を検討すると、次のとおりである。

(1) 第一審原告辻川

イ 昭和六二年四月七日の発令

平駅旅行センター分室における第一審原告辻川の業務は駅構内の社員駐車場の管理、特急券、オレンジカードの販売等であって、一日に行うべきものとされた仕事は量的に非常に少なく、勤務時間の大半を無為に過ごしたという勤務状況からすると、証拠(原審及び当審証人成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、第一審被告の発足時には関連事業の運営態勢が不十分であったと認められることをしんしゃくしても、右発令の業務上の必要性については相当の疑問が残るものというべきである。そして、右発令によって第一審原告辻川がその妻と別居することとなったという家庭生活上の不都合は、その家庭状況に照らすと、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものであったといわざるを得ないが、平駅転勤中の第一審原告辻川が、動労水戸執行委員長として組合活動を維持するために相当な犠牲を払い、組合活動上の著しい不利益を被ったことは前記判示のとおりであって、以上の事実に、前記2判示の事実を併せ考えると、右発令は、第一審原告辻川に対し、不当労働行為意思に基づいて組合活動上の不利益を被らせたものであって、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するものであり、人事権の濫用に当たるか否かを問うまでもなく、無効というべきである。

ロ 同年一一月一日の発令

右発令は、用地管理室が水戸支社に開設されたことに伴う関連異動であって、東海駅直営売店「ルトラン東海」の転出者の補充として行われたものであり、右補充を不要とする特段の事情を認めるに足りる証拠はないのであるから、右発令が業務上の必要性を備えていたこと自体は否定することができない。

しかし、転勤先の東海駅から動労水戸の組合事務所のある水戸駅までは電車で約一五分程度を要し、組合事務所への集合や組合員間の連絡等には依然としてある程度の支障が残り、第一審原告辻川の組合活動上の不利益が十分には回復されていないものと認められるから、前記2の事実をしんしゃくすれば、右発令は、第一審原告辻川に対し、不当労働行為意思を決定的動機として、引き続き組合活動上の不利益を強いたものというべきであって、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するものであり、人事権の濫用に当たるか否かを問うまでもなく、無効というべきである。

ハ 平成五年一〇月一五日の発令

右発令は、東海駅直営売店「ルトラン東海」の閉店に伴って第一審原告辻川を他に異動させる必要が生じたところ、同原告の通勤の便宜を考慮し、同原告の自宅からの最寄り駅である勝田駅の直営売店「ピッコロ勝田」に転勤させたのであるから、業務上の必要性があったものということができる。また、右発令によって、勝田駅から電車で約五分程度の距離にある、水戸駅構内の動労水戸の組合事務所への集合はもとより、組合員間の連絡等にも支障がなくなったのであるから、第一審原告辻川の組合活動上の不利益はもはや解消されたものと認めることができる。そして、他に、右発令によって第一審原告辻川が不利益を被ったことを認めるに足りる証拠は存しない(なお、第一審原告辻川を関連事業に就労させることとしたこと自体が不当労働行為ないし人事権の濫用に当たるといえないことは前記(二)のとおりであるから、関連事業に就労させた点を除く具体的な勤務指定における不当労働行為該当性ないし人事権の濫用の有無の判断については、関連事業に従事し又は運転士の業務に就いていないために被ったとする職務上の不利益ないし生活上の不利益の点を考慮すべきでないことは明らかである。)。

そうすると、右発令は、これによって第一審原告辻川に何ら不利益を与えたものとはいえないのであるから、右発令に当たっての第一審被告の不当労働行為意思の有無を問うまでもなく、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当せず、また、右発令が行われた前記経緯にかんがみると、人事権の濫用にも当たらないものというべきである。

ニ  以上によれば、第一審原告辻川に対する昭和六二年四月七日の発令及び同年一一月一日の発令は無効であるが、その後にされた平成五年一〇月一五日の発令は有効というべきであるから、結局、第一審原告辻川は、平成五年一〇月一五日の発令による勝田駅営業指導係(同駅直営売店「ピッコロ勝田」に配置)としての地位に現にあるものであって、右発令が無効であることを前提として水戸駅営業指導係の地位を有するものではないことが明らかである。

(2) 第一審原告柴田

イ 昭和六二年四月七日の発令

右発令は、それまで合計四人で運営していた高萩駅直営売店「高萩トキワ店」の人員数を一人増員し、合計五人とする結果となったものであるが、その後程なく二人が順次転出していること(右各転出がどのような事情及び必要に基づいて行われたかについては、これを明らかにする証拠はない。)からすると、第一審原告柴田に対する昭和六二年四月七日の発令が果たして業務上の必要に基づくものであったか否かについては、疑いが残るものというべきである。しかも、第一審原告柴田は、右発令のため動労水戸の水戸支部執行委員長代行としての活動に困難を来し、昭和六三年一月これを退任して動労水戸の執行委員に就任したが、組合事務所への集合や組合員間の連絡等、右執行委員としての活動に対する支障はその後も継続したのであるから、右発令によって、同原告は、組合活動上、相当の不利益を被ったものということができる。なお、第一審原告柴田は、右発令後一時肩書地所在の両親宅に転居した事実があるが、証拠(原審証人成島陸郎)及び弁論の全趣旨によれば、第一審原告柴田は、右転居の予定を右発令前に第一審被告に申告せず、第一審被告は右転居の予定があることを事前に知らなかったことが認められるから、右両親宅からの通勤時間の点を右発令による不利益として考慮することはできないというべきである。

以上の事実に、前記2に判示した事実を併せ考えると、右発令は、動労水戸(ないしその水戸支部)の役員である第一審原告柴田に対し、不当労働行為意思に基づいて組合活動上の不利益を被らせたものであって、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するものであり、人事権の濫用に当たるか否かを問うまでもなく、無効というべきである。

ロ 平成二年三月二〇日の発令

右発令は、大甕駅直営売店「ルトラン大甕」における定年退職者の補充として行われたものであり、右補充を不要とする特段の事情を認めるに足りる証拠はないのであるから、右発令が業務上の必要性を備えていたこと自体は否定することができない。

しかし、右発令によって、動労水戸の執行委員としての活動の便宜は大幅に改善されたものの、組合事務所への集合や組合員間の連絡等に対する支障は、ある程度残っていたのであるから、前記2の事実をしんしゃくすれば、右発令は、第一審原告柴田に対し、不当労働行為意思を決定的動機として、引き続き組合活動上の不利益を被らせたものといわざるを得ず、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するものであり、人事権の濫用に当たるか否かを問うまでもなく、無効というべきである。

ハ 平成四年三月一日の発令

右発令は、大甕駅直営売店「ルトラン大甕」の閉店に伴い、第一審原告柴田を他に異動させる必要が生じたところ、一方で勝田駅直営売店「モンタニエ」の社員一人の退職があったため、右退職者の補充として、第一審原告柴田の通勤の便宜をも考慮し、右「モンタニエ」に転勤させたものであるから、業務上の必要性があったものということができる。また、水戸市内の前記住居を前提にする限り、右発令によって、水戸駅構内の動労水戸の組合事務所への集合はもとより、組合員間の連絡等にも支障がなくなったのであるから、第一審原告柴田の動労水戸の役員としての組合活動に対する不利益は、第一審原告辻川の場合と同じく、もはや解消されたものと認めることができる。そして、他に、右発令によって第一審原告柴田がその余の不利益を被ったことを認めるに足りる証拠は存しない。なお、右発令に当たり、第一審被告は、第一審原告柴田が既に両親宅に転居していた事実を知らなかったのであるから、同原告が右両親宅に居住していることを前提として右発令による不利益の有無を論ずるのは、当を得ないものというべきである(このほか、関連事業に就労させた点を除く具体的な勤務指定における不当労働行為該当性ないし人事権の濫用の有無の判断については、関連事業に従事し又は運転士の業務に就いていないために被ったとする職務上の不利益ないし生活上の不利益の点を考慮すべきでないことは、第一審原告辻川の場合と同様である。)。

そうすると、右発令は、これによって第一審原告柴田に何らの不利益を与えたものではないというべきであるから、第一審被告の不当労働行為意思の有無を問うまでもなく、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当せず、人事権の濫用にも当たらないものというべきである。

ニ  以上によれば、第一審原告柴田に対する昭和六二年四月七日の発令及び平成二年三月二〇日の発令は無効であるが、その後にされた平成四年三月一日の発令は有効であるから、結局第一審原告柴田は、右発令による勝田駅営業指導係(同駅直営売店「モンタニエ」に配置)としての地位に現にあるものであって、右発令が無効であることを前提として水戸駅営業指導係の地位を有するものではないことが明らかである。

4  本件各転勤発令についてのその他の違法事由について

第一審原告辻川及び同柴田は、本件各転勤発令の根拠となった就業規則には、国鉄と労働組合との間の労働協約や協定、慣行を無視した違法がある旨主張するが、第一審被告が国鉄とは別個の法主体であることは前記二2に判示したとおりであって、国鉄が労働組合との間で締結し又は成立させた労働協約、協定、慣行等が第一審被告に引き継がれるものとする根拠はないから、右主張は失当というべきである。

また、第一審原告辻川及び同柴田は、本件各転勤発令のうち昭和六二年四月七日の発令のものは、就業規則の作成に当たって要求される事業場の労働者の過半数を代表する者の意見の聴取等の労働基準法九〇条一項所定の手続を経る前に行われた違法がある旨主張し、証拠(原審証人伊藤嘉道)によれば、本件各転勤発令のうち右同日発令のものは、右意見聴取及び労働基準監督署長への届け出よりも前にされたものであることが認められるが、同法九〇条一項所定の意見聴取の手続及び同法八九条一項所定の行政官庁への届け出は、就業規則の効力要件ではないから、そのような事実があるからといって、右発令が無効となるものではない(なお、右証拠及び弁論の全趣旨によれば、右就業規則の内容は、昭和六二年三月二三日開催の第一回取締役会で決定され、第一審被告の発足後の同年四月以降、事業場の労働者の過半数を占める労働組合の意見の聴取がされた上、同年五月中旬に労働基準監督署長への届け出が終了したことが認められる。)。

さらに、第一審原告辻川及び同柴田は、本件各転勤発令のうち昭和六二年四月七日の発令のものは、第一審被告がその社員を公正に判断し得るはずもない発足後間もない時期にされたものであるから、「社員の任用は、社員としての自覚、勤労意欲、執務態度、知識、技能、適格性、協調性、試験成績等の人事考課に基づき、公正に判断して行う。」と定める就業規則二七条の規定にも違反する旨主張し、証拠(乙二二の1)によれば、第一審被告の就業規則にはその主張のとおりの規定が存することが認められるが、第一審被告発足後間もない時期の発令であるからといって、その一事のみによって社員を公正に判断し得るはずがないと断ずることはできず、他に第一審被告がこのような判断をし得ない状態にあったことを認めるに足りる証拠はない。

もっとも、本件各転勤発令のうち昭和六二年四月七日の発令のものが、労働組合法七条一号の不当労働行為に該当するものとして無効であることは、前記判示のとおりである。

七  まとめ

以上の次第で、第一審原告らの主位的請求並びに第一審原告辻川及び同柴田の予備的請求はいずれも失当として棄却すべきであるから、第一審被告の本件控訴に基づき、一部これと異なる原判決を右のとおり変更するとともに、第一審原告らの本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官福岡右武 裁判長裁判官菊池信男、裁判官伊藤剛は、転補のため署名押印することができない。裁判官福岡右武)

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